おばあ様と友達のおじいさんの、昔恋人だったみたいな姿を見てくすぐったくなる
「では神官に神聖物を用意させ民の前でドラゴンに神聖物を破壊させるという事でよろしいでしょうか?」
公爵が最終確認をしてきたね。
「うーん。でもさすがに神官がかわいそうかなぁ。威厳が地に落ちちゃうからね。じゃあ……こうするのはどうかな? 神官に今の話をするの。『偽物の神聖物を寄付集めに使うとドラゴンに襲われる』と話す少女がいると聞いたって。もちろんふんわり言ってね? 確実に襲われるって言ったらダメだよ? 公爵はあくまで第三者から聞いた話として伝えるの。それから、公爵自身は神聖物を本物だって信じている振りをしてね?」
「聞いた話としてですか? 信じている振りもするのですか?」
「うん。公爵がわたしと関わりが深いと思われると後で迷惑をかけちゃうだろうから。それに、公爵が神聖物を信じているって言えば油断するかもしれないし」
「わたしに迷惑が……ですか? 構いませんが……」
「それはダメだよ。わたしは魔族に育てられたんだよ? 人間は良くは思わないはずだからね。公爵はこう言うの『リコリス王国のアカデミーにはドラゴンと暮らす少女がいる。その少女が偽物の神聖物が出回っていると騒いでいる。このままだと民が見ている前でドラゴンが神聖物を壊す事になるかもと言っていたが、まさか神殿から譲り受けた物が偽物のはずがありませんよね? わたしは神官を信じているので明日民の前で神聖物のお披露目をしたい。神聖物が本物だと証明したい』これでどうかな? でもこれだと頭がおかしい少女みたいになっちゃうかな?」
「神官は神聖物が偽物だと分かっているはずです。なんとしてでもお披露目を阻止するはずです。上手くいくでしょうか? いや……まさか本当にドラゴンが来るとは思わずにペリドット様を侮辱して普通にお披露目をしようとするかもしれない。それで、ドラゴンが来ないから神聖物は本物だと正当化しようとするかも……?」
「うーん。お披露目の準備を始める前に偽物だって認めてくれたら楽なんだけどね。大事にはしたくないんだけど……そうだ! 他の大国の王様にも来てもらえるように手紙を出してもらえないかな? 大国だからかなりの寄付をさせられているはずだよね? 協力してくれると思うんだ。もちろん来なくてもいいの。重要なのは四大国の王様に神聖物が偽物だと知られるわけにはいかないって思わせる事なんだよ? 『良心』と『偽物だとばれたら』っていう焦りで自ら話してくれればいいんだけど……大国の王様達はルゥと会っているから、今の『ドラゴンと暮らす少女』がわたしだってすぐに気づくかもしれないね。わたしがお兄様を大切に想っているのは王様達も知っているから、お兄様を心配して助けに来たって思うはずだよ? だから明日は王様達も来てくれるかもしれないね。時間の調整が大変ならヒヨコちゃんに送迎を頼んでみようかな?」
「ですが……そうなると結局ドラゴンが来る事になるのでは?」
「そうだよ? 少し離れた所に待機してもらって、ドラゴンの姿を確認させるの。そうしたらさすがに神官自ら偽物だって言うでしょう? ドラゴンに襲われるくらいなら偽物でしたって認めると思うんだ。もちろん民に神聖物が偽物だったと知らせる必要はないよ? 民にとって神殿は神様そのものだからね。それに神官の弱味を握っていられた方が色々良さそうだし。お兄様と公爵に、神官の口から偽物だったって言わせられたらいいんだけど……今までの寄付金は使って返せないとしても、これからは寄付金なんて支払わないって分からせないと」
「もし認めなかったら……ドラゴンは襲ってくるのでしょうか?」
「え? 襲わないよ? ドラゴンは桁外れに強いから人間に興味なんて無いしね。滅ぼすつもりなら理由なんか無くても一瞬で消し去るよ?」
「ドラゴンを信じてもよろしいのでしょうか? 気が変わったと攻撃されたら……」
まぁ、公爵の言うように確かに人間からすればドラゴンって聞いただけで怖いはずだよね。
「公爵は相変わらずですね。あの頃と変わっていません」
おばあ様?
あの頃のままって?
「王太后……」
「ふふ。今はカサブランカとお呼びください。殿下……」
「カサブランカ……」
「殿下はあの頃のままですね」
「わたしは年老いてしまった。だが、カサブランカは美しいままだ」
「まぁ……ふふ。わたくしももうおばあさんですよ?」
やっぱり公爵とおばあ様はアルストロメリア王国で知り合いだったんだね。
うーん。
本当に公爵とおばあ様は恋人じゃなかったのかな?
いい雰囲気だけど……?