活発な令嬢と気弱な王子の数十年後……か
「……公爵は今の話をお兄様に『ルゥ』から聞いたんじゃなくて『ペリドット』から聞いたって伝えて欲しいの」
「わたしから伝えるのですか? 『魔素に閉ざされていた黄金の国ニホンの王女』でしたかな?」
公爵が尋ねてきたね。
「うん。魔族と共存しているって付け加えてくれるかな?」
「……誰の目から見ても『ペリドット様』は『聖女様』ですが、それでも『ペリドット』を名乗るのですか?」
「うん。市場にいた人間はわたしが聖女だったって知っているでしょう? でも『お兄様にはまだ言わない』とだけ伝えてあるの。つまり口止めはしていないんだよ?」
「ペリドット様はどうして市場の者達に聖女だったと伝えたのですか?」
「うーん。とりあえず、今のわたしがしたいのはペリドットとしてアカデミーに入学する事なんだよね。普通科に通うには王族か貴族じゃないといけないでしょ? 他の学科に通うとしても推薦状がないといけないんだよね? わたしには師匠もいないし、だから王族として普通科に入り込みたいんだ」
「なるほど……」
「そうなると『リコリス王国にいる公爵と侯爵の令嬢を婚約者候補にする』つまり侯爵以上の地位にある令嬢を候補にっていうお兄様の考えからすると、わたしも候補に入る事になるでしょ? アカデミー在学中は税金の関係で一時的にリコリス王国の民になるからね。もちろん政治的力を持たない事は知っているよ?」
「つまり、明朝アカデミーに入学すればいつでも聖女様だったと明かしても良いと?」
「違うよ? 今朝、アカデミーの学長と話をして来たの。今日付けでわたしはアカデミーに入学しているんだよ? だから、わたしはもうこの国の民なんだよ?」
「今朝? 本日は休校日ですが?」
「うん。昨夜、手紙を枕元に置いたの。『黄金の国の王女が黄金の寄付をしたい』ってね。早朝から喜んで迎えてくれたよ?」
「その黄金は……偽物ではありませんよね?」
「え? あはは! 違うよ。本物だよ? 公爵はわたしを悪女だと思っているの?」
「あ……いえ、大昔に、知り合いの令嬢に『黄金の洞窟に連れて行く』と騙されてクマポイの洞窟に連れ込まれまして……あの時は死ぬ思いを……それを思い出しまして……」
あれ?
おばあ様をチラチラ見ているね?
え?
まさか、おばあ様がその令嬢!?
だって公爵は王子だったんだよね?
王子を騙してそんな危ない所に連れて行ったの?
まさか、暗殺しようとしたの?
でも、クマポイってなんだろう?
この世界の人間は皆知っている生き物なのかな?
「おばあ様……まさか、公爵を……」
もう時効だよね?
生きているし大丈夫だよね?
「うふふ。あの冒険は楽しかったわね。また行きましょうか?」
「……遠慮する」
うーん。
暗殺って感じじゃなさそうだね。
活発な令嬢と気弱な王子の冒険みたいな感じなのかも。
それにしても公爵は顔色がどんどん悪くなっていくね。
昔の大変な思い出が蘇ってきたのかも……
考えてみれば、おばあ様は魔族がたくさんいる幸せの島に大砲を撃ち込むくらいだからね。
昔から、かなり気が強かったのかも。
そのおばあ様が友達だったのなら公爵は苦労したのかもしれないね。
クマポイのお話は
『幼馴染みのガサツな侯爵令嬢は魔物を一撃で倒すほど強いと判明したので怖くて逆らえないし、恋心を抱くなんて絶対にあり得ません』
に書かれています。