最終話 幸せへの第一歩
「ママ! ほら、この貝殻すごくかわいいでしょ? カサブランカの貝殻もかわいいんだよ? 見てあげて」
ヘリオスがヨチヨチ歩いてきたね。
「ヘリオスが拾った貝殻もかわいいよ」
カサブランカはスタスタ歩けるんだね。
双子だけどカサブランカの方が少し大きいみたい。
お互いの貝殻を褒めているけど、卵の中で仲良くなったのかな?
「ふふ。二人ともお腹は空かない? 卵から孵ってまだ何も食べていないでしょう?」
「お腹が空く? よく分からないよ。聖獣の時はお腹が空かなかったから」
そうだね。
確かにうさちゃんはそんな感じだったよね。
「うーん……何か食べたいかも」
ヘリオスはお腹が空いたんだね。
「ははは! そうか、そうか。もう、夕飯はできてるからなぁ。皆で食べようなぁ」
おばあちゃんが嬉しそうに話しかけてきたね。
「うん!」
ヘリオスがおばあちゃんに抱っこされて広場に行ったけど……
吉田のおじいちゃんも一緒に歩いていったね。
頑張って前に進もうとしているんだ。
「……パパ、ママ。ベットに寝たいよ」
カサブランカはベットでウトウトしたいのかな?
うさちゃんの頃と変わらないね。
「では、カサブランカはパパと昼寝する島に行こう」
ハデスがカサブランカを抱っこしながら話しかけている。
「うん!」
ふふ。
ケンカするんじゃないかって心配していたけどすごく仲良しで安心したよ。
「ペルセポネは、ゆっくり食事をするといい」
ハデスは優しいね。
いつもわたしを休ませようとしてくれるんだ。
「ありがとう。ハデスの夕食は後で持っていくね」
一時間後___
「ハデス……入るよ?」
ヘリオスを抱っこして『うさちゃんがお昼寝する島』に夕食を持っていくと……
「あ……ふふ。ベットで寝ていたんだね」
二人とも、すごく気持ち良さそうに眠っている。
「疲れているんだよ。パパはほぼ寝ずに卵を温めていたから」
ヘリオスは卵の中からずっとハデスを見ていたのかな?
「ずっと訊きたかったんだけど、卵の中から外が見えていたの?」
「見えたわけじゃないかな。ぼんやり気配を感じたの」
「そうなんだね。なるほど……」
「ふわぁぁ……眠くなってきたよ」
「そうだね。ママも眠くなってきたよ。じゃあ、川の字……じゃなくて並んで寝ようか」
「うん!」
こうして四人でベットに入ると……
かなり狭いよ。
でも、皆でぴったりくっつけて嬉しいかも。
「ママ……ずっと笑っているね」
「ふふ。ヘリオスもだよ?」
「えへへ。楽しいから……かな? ワクワクするの。これから楽しい事がいっぱいありそうだから」
「わたしも同じ気持ちだよ。……ヘリオス、これからよろしくね」
「……スゥ」
あれ?
寝ちゃったのかな?
かわいい寝顔だな。
「……ん? ペルセポネ?」
ハデスが起きたんだね。
「夕食を持ってきたの」
「夕食……? ああ。すっかり眠ってしまったな」
「ふふ。ヘリオスも今眠ったの」
「あぁ……愛らしい寝顔だな。ペルセポネによく似ている」
「かわいい口と耳はハデスにそっくりだよ?」
「そうか。わたしにも似ていたか」
「……幸せだね。子供達の体温を感じながら眠れるなんて……」
「そうだな。これからは毎日この幸せが続くのだな」
「ハデス……?」
「……ん?」
「天界でわたしに一目惚れしてくれてありがとう」
「その話をされると恥ずかしいが……あの時、光の中で花を摘むペルセポネは神々しいほどに美しかった。もちろん今も美しいがな」
「ハデス……」
ゆっくりハデスの顔が近づいてくる。
口づけしてくれるのかな?
目を閉じて待つと柔らかい唇が……
唇……?
違う。
これはまさか。
目を開けると……
やっぱり……
「カサブランカ……」
ハデスが呟いたけど……
うさちゃんの時と変わらないね。
わたしとハデスの唇の間にカサブランカのかわいい手が入り込んでいる。
「やはりダメだ! ペルセポネをハデスには渡さんっ!」
カサブランカ……
やっぱり急には変われないよね。
ハデスは、どう思っているんだろう?
「……子うさぎ。そうか……やはり子うさぎは子うさぎだな。勝負だ! 波打ち際で貝殻拾いをするぞ!」
「望むところだ! ゴミ虫め!」
あぁ……
結局こうなるんだね。
でも、これはこれでわたし達らしいかも。
あれ?
ハデスもカサブランカも笑っている……?
「やれやれ、カサブランカに猫かぶりは無理か」
ヘリオスもオケアノスの話し方に戻っているね。
「起こしちゃったね。もう一度眠る?」
「いや、すっかり目が覚めた。これからもこんな日々が続くのか」
「そうだね。わたし達らしい日々が続くんだね」
「悪くない……」
「悪くない? ふふ。ママがよく言っていた言葉だね」
「ママ? ハーピーか?」
「うん。嬉しい時に言っていたの」
「そうか。……オレも今……嬉しいと思っている」
「あはは! じゃあ、貝殻拾いの勝敗を見に行こうか」
「そうだな。カサブランカとハデスの初勝負だからな」
初勝負……か。
ふふ。
どっちが勝つのかな?
ヘリオスを抱っこして外に出ると……
「うわあぁ! 流れ星だ! ヘリオス、ほら! 見える?」
キラキラ光りながら流れていく星が綺麗だ。
「パパとカサブランカも星を見ているぞ。仲直りしたようだな」
「ふふ。元々仲良しだからね」
「あいつらは不器用だからな……」
「そうだね。知っているかな? 流れ星が消えるまでに願い事を三回唱えられるとその願いが叶うんだって」
「そうなのか?」
ハデスが話しかけてきたね。
腕にはしっかりカサブランカを抱っこしている。
「皆でやってみない?」
家族で初めて星を見た記念になりそうだよ。
「では、やってみるか。次に流れた星でやるぞ?」
ハデスが優しく微笑みながら空を見上げている。
「うん!」
あ!
流れた!
「ずっと一緒! ずっと一緒! ずっと……あぁ間に合わなかった」
なかなか難しいよ。
「共にいたい! 共にいたい! 共に……ダメか……」
「皆で幸せにな……あぁ……星が消えた……」
ハデスもヘリオスもダメだったんだね。
こんなの本当にできるのかな?
「いつまでも、この幸せが続いて欲しい……」
……カサブランカ?
星を見ながら呟いたけど……
すごく真剣な顔だ。
「続くよ。絶対に」
何があろうとこの幸せを守り抜くよ!
「続く。必ずな」
「そうだ。必ず続く。オレとパパとママとずっと一緒に幸せに暮らそう」
皆、同じ気持ちなんだね。
「この星空を忘れない。新たな幸せの始まりを……」
カサブランカ……
そうだね。
新しい幸せが今日から始まるんだ。
ん?
でも、おかしくない?
まだ夕方くらいのはずなんだけど。
「(前を向かせてくれたお礼だ)」
……?
吉田のおじいちゃんの声が聞こえたような……
気のせいかな?
いや、こんな事ができるのはおじいちゃんかおばあちゃんくらいだよね。
「夜になったから冥界に戻るか」
ハデスは夜だと思っているんだね。
本当はまだ夕方のはずだけど。
「ハデス、ベットを忘れるな」
カサブランカはすっかり猫かぶりをやめたんだね。
「忘れるはずがないだろう。カサブランカはあのベットでないと寝ないのだからな」
「分かっていればいい」
ハデスとカサブランカは仲が悪そうに見えるけど、本当は仲良しなんだね。
なんだかんだ言いながら二人とも笑顔だし。
「よし。では帰ろう! 我が家に!」
これから始まる新しい生活にワクワクする。
どんな日々が待っているんだろう。
あぁ……
勇気を出して前に進んだから、キラキラ輝く幸せを掴む事ができたんだ。
さあ、幸せな未来へ一歩踏み出すよ!
この一歩が新しい幸せに続いていくんだから!
ペルセポネが主役の物語は今回で最終話となりました。
2022年8月前作を初投稿してからの約二年半、投稿するとすぐに読んでくださる方々をカササギで確認する度に嬉しくなって『よし次も頑張ろう』と思う事ができました。
まだまだ書ききれていないエピソードがあるので続編として投稿したいと思います。
とりあえず一話だけ投稿し、二話目からは前作と今作の文章を直しながらの投稿になるかと思います。
読み返してみると直したいところが次から次へと見つかり、今までのように毎日二回投稿はできなくなりそうです。
それでは、ペルセポネ達の物語にお付き合いくださり本当にありがとうございました。
続編はペルセポネの娘のカサブランカが主役の物語になります。
今まで読んでくださった全ての方に感謝の気持ちでいっぱいです。
カサブランカが主役の物語の一話目は
『冥界姫は眠りたい~適温の部屋のフカフカベットでゴロゴロしていたいのに、一日五十歩も歩くなんて無理~』
という題名で本日中に投稿する予定です。
二話目の投稿はまだ先になりそうですが、続編もよろしくお願いいたします。




