もう立ち止まるのは終わりだよ
あれ……?
今……
気のせいかな?
吉田のおじいちゃんの気配がした?
でも、おじいちゃんは少し離れた波打ち際でおばあちゃんと仲良く貝殻を拾っているし……
うーん……?
「(ぺるぺる……良かったなぁ。良かった……)」
……?
小声で話すおじいちゃんの声が聞こえてきた?
やっぱり気のせいじゃないのかも。
姿を消したおじいちゃんがいるっていう事?
もしかして、わたしの赤ちゃんが無事に産まれてくるか心配で過去から見に来たとか?
かなり神力を使うって聞いたけど……
大丈夫なのかな?
でも……
そんなに心配させていたんだね。
安心させてあげないと……
大好きなおじいちゃんを安心させてあげないと!
声がした方にゆっくり歩いていく。
この時間のおじいちゃん達は、この事に気づいていないのかな?
それとも、この時間のおじいちゃんは過去にこの時間に来ていたわけだから……
全て知っていて、気づかない振りをしている……とか?
「(おじいちゃん……わたし……すごくすごく幸せだよ。だから安心してね)」
「(ぺるぺる……!? 気づいてたんか?)」
「(姿は見えないけど、過去から来たおじいちゃんなんだよね?)」
「(……ぺるぺるには敵わねぇなぁ)」
「(この幸せな未来を、過去のわたしに話さないで)」
「(ぺるぺる……?)」
「(この未来を先に知ってしまったらダメなの。皆で苦しんだから前に進む事ができたんだから)」
「(……そうか、そうか)」
「(過去のおじいちゃん?)」
「(んん? なんだ?)」
「(まだ自分を恨んでいるの?)」
「(じいちゃんの罪は永遠に消えねぇからなぁ)」
「(オケアノスは前に進んだよ?)」
「(オケアノスが……)」
「(立ち止まるのは、もうおしまい。……でしょう?)」
「(頭じゃ分かってても……心が……心が自分を赦せねぇんだ)」
「(うさちゃんの娘さんの魂がオケアノスになって、オケアノスはわたしになった。そして今、わたしの中にいたオケアノスはヘリオスになったの。皆が前に進んだのにおじいちゃんだけが立ち止まるの?)」
「(ぺるぺる……)」
「(一緒に前に進もう?)」
「(……本当にぺるぺるには敵わねぇなぁ)」
「(一緒にオケアノスを……ヘリオスを幸せな子にしよう?)」
「(……やり直せるか? じいちゃんは、やり直せるんか?)」
「(やり直すんじゃないの。今から皆でもっともっと幸せになるんだよ。これから始まるの。始めるんだよ)」
「(……始める……か)」
「ママ! この貝殻もかわいいよ?」
少し離れた波打ち際でヘリオスが貝殻を見せている……
「(ほら、ヘリオスは頑張って前に進んだよ? おじいちゃんはずっと立ち止まるつもりなの?)」
「(それは……)」
「(おじいちゃんの代わりに、わたしがオケアノスの母親になるんじゃないんだよ。わたしはオケアノスの母親じゃない。わたしはヘリオスの母親なの)」
「(ぺるぺる……)」
「(今までもこれからもオケアノスの母親はおばあちゃんで、父親はおじいちゃんだよ?)」
「(……!)」
「(どんな辛い事も、乗り越えた先には幸せがあるの。でも、その幸せは皆が来るのを待っているんじゃないんだよ。手を伸ばして、その幸せを掴もうとしなければ幸せにはなれないの)」
「(掴もうと……)」
「(一緒に幸せを掴もう?)」
「(ぺるぺる……)」
「(ヘリオスの所に行くね。かわいい貝殻を見せたいみたいだから)」
「(……そうか)」
「(おじいちゃん……大好きだよ。だから、ずっと笑っていて欲しいな)」
「(ぺるぺる……)」
「(ありがとう。おじいちゃんは世界一素敵なおじいちゃんだよ)」
「(……そうか、そうか。じいちゃんも元いた時間に戻るからなぁ)」
「(あ、そうだ。おじいちゃん……出産の時にふんどし踊りをしないで……)」
って、もういない。
過去に帰ったんだね。
はぁ……
過去のわたしは出産の舞をまた見せられるのか……
あれ?
でも、今はもう未来だから……
ん?
わたしが二人いるっていう事?
頭が、こんがらがってきた。
難しくてよく分からないよ。
うーん……?
次回最終話です。