もっともっと幸せに
第三地区の皆で順番に子供達を抱っこしている。
カサブランカもヘリオスも皆から大切に想われているのが分かって嬉しそうだ。
「ぺるみ! やっと赤ん坊を抱っこできたぞ! えへへ。かわいかったなぁ」
ベリアルが嬉しそうに話しかけてきた。
かわいいなぁ。
卵の時から一度も抱っこさせてもらえなかったからね。
自分と同じくらいの大きさの卵を抱っこするベリアル……
見たかったなぁ。
ぐふふ。
ぐふふふ。
「ふふ。しっかり見ていたよ。そして、ベリアルがデレデレする姿をしっかり脳裏に焼き付けたよ。ぐふふ。ぐふふふ」
「お前……子供達の前でそんなグフグフ顔を見せるなよ。教育上よろしくないからな。それにしても、ずっとキラキラしてるな……ぺるみの嬉しい気持ちの神力が溢れ出してるぞ?」
嬉しい気持ちの神力?
あ、本当だ。
全然気がつかなかったよ。
「大丈夫だよ。子供達にはグフグフ顔は見せないから。えへへ。赤ちゃんに会えて嬉し過ぎて愛が溢れちゃったんだね」
「愛が溢れた?」
「うん。『大好き』っていう気持ちが心から溢れたら『愛』になると思うんだ! 愛は溢れ出しちゃうものなんだよ。自分の意思では、とめられないのが愛なの!」
そう。
ベリアルへの変態的なこの気持ちも愛なんだよ!
誰にも、とめられなくて溢れ出しちゃうの!
「気持ちが心から溢れる……か。ぺるみらしい考えだな」
「ベリアルに対しても、つい愛が溢れちゃうんだよね。ぐふふ。あ、今はリリーがカサブランカを抱っこしているんだね」
「うん! オレ達の子供はまだ先にする事にしたんだ」
「え? そうなの?」
「今はリリーとオレの二人の時間を楽しもうって話したんだ」
「そうなんだね」
「オレ達はよほどの事がない限り死なないしな。それに、オレ達に子供を望むなら天界からオレの身体を持ってこないといけないだろ? リリーにオレの過去を話したんだ。だから前の身体に戻るのを申し訳ないって思ったみたいで」
「……そう」
「それに、最近は新しい果物とか野菜とかの種をベリス王様からいっぱいもらったからそれをちゃんと育てたいってリリーは頑張ってるんだ」
「ふふ。毎日充実しているんだね」
「あ! えへへ」
ベリアルが波打ち際を見て嬉しそうに笑った?
あれは……
ハデスとカサブランカが貝殻拾いを始めたんだね。
うさちゃんはわたしの赤ちゃんになってもハデスと貝殻拾いをしたいって言っていたけど……
早速願いが叶ったんだね。
卵人間の姿でもしていたけど……
「……ママ」
ヘリオスがわたしの足元にヨチヨチ歩いてきた。
かわいいなぁ。
抱っこして欲しそうに両腕を伸ばしている。
ゆっくり抱き上げると軽過ぎて心配になるくらい小さいよ。
「ヘリオスは貝殻拾いをしないの?」
「うん。ママに抱っこして欲しい。今までもずっとママの中にいたから」
ずっとわたしの中に……
オケアノスとしても、わたしの赤ちゃんとしてもずっと一緒だったよね。
「ふふ。甘えん坊のヘリオス……大好きだよ」
ヘリオスの柔らかい髪に口づけをすると幸せな気持ちになる。
「……幸せ過ぎて怖い。いつかこの幸せが壊れそうで、奪われそうで怖いんだ」
「誰にも奪わせない。誰にも虐げさせない。そんな事をする奴はママが考え方を改めさせてあげるよ。そんな世界ならママが変えてみせる!」
「ぺ……ママ……」
「ふふ。まだママって言い慣れないよね。ゆっくりでいいんだよ? ハデスが言っていた通り、ゆっくりゆっくり家族になっていこうね」
「……ゆっくり、ゆっくりか」
「あはは! オケアノスの時みたいに話した方が楽でしょう?」
「それはそうだが……ハデスのあの言葉を聞いたからな……」
「ハデスがどうかしたの?」
「あぁ……ハデスはずっと卵のオレ達を抱っこしていただろう?」
「うん。わたしが仕事をしていた時も、『うさちゃんがお昼寝する島』でもずっと一人で抱っこしていたよね」
「……ハデスの子に産まれてくる事で苦労させるかもしれない。申し訳ないとずっと謝っていた」
「そうだったの……」
「それから……愛していると……」
「そうだね。ハデスは心からヘリオスとカサブランカを愛しているんだよ」
「分かっている……ハデスは不器用だからそれを上手く表現できない事も分かっている」
「……うん」
「オレは今日からヘリオスとして生きると決めた。今でも……娘や孫達……桜の木の下で眠る聖女を不幸にしたオレ自身を……そんな環境を生み出した……オレの父親を赦せたわけではない。だが……前に進むと決めたのはオレ自身だ」
「うん……」
何て言ったらいいのか分からないよ……
「オレのパパはハデスで、ママはペルセポネだ」
「……オケアノス」
「だから……オレは今日からヘリオスなんだ」
「……うん。一緒に幸せになろうね」
「そうだな。いや、そうだね。……ママ」
ヘリオスと微笑み合うと心が温かくなる。
「ママ!」
カサブランカが波打ち際で手を振っている。
かわいい貝殻を見つけたのかな?
「ふふ。今行くよ。ヘリオス、一緒に貝殻拾いをしよう」
「うん!」
ハデスとヘリオスとカサブランカと波打ち際で貝殻拾いを始める。
子供達の小さな手で貝殻を持つと、小さな貝殻が大きく見えるね。
「よぉし! じいちゃんも拾うか!」
「じゃあ、ばあちゃんも拾うぞ!」
「誰が一番かわいい貝殻を見つけるか勝負だ!」
「ははは! 負けねぇぞ!」
第三地区の皆も一緒に拾い始めたね。
賑やかだなぁ。
穏やかで、優しい時間だ。
これが『幸せ』なんだね。
大好きな家族と笑い合える時間が一番の幸せ……か。
色々あったな……
色々あったよ。
でも、何ひとつとして無駄な事はなかった。
全ての事に意味があって、全ての事が幸せに繋がっていたんだ。
絶望の中にいても、その絶望は未来の幸せへと繋がっている。
その時は、そうは思えなかった。
でも、今になって分かったんだ。
あの時、死ななくて良かった。
頑張って踏ん張って乗り越えてきて良かったって。
あの時わたしが死んでいたら……
こんなにかわいい子供達は存在していなかったんだね。
ハデスとの幸せな暮らしもなかったんだ。
これからもこの幸せを守っていくよ。
特別な事なんて望まない。
ただ穏やかに、皆と笑って過ごしたい。
それがわたしの幸せだから。
「ママ。えへへ。こんなにかわいい貝殻があったよ」
「ほら、ママ見て。この貝殻かわいいよ?」
ヘリオスとカサブランカが小さくてかわいい貝殻を見せてくれている。
「うわあぁ! かわいいね!」
こんな幸せな日々がこれからも続くんだね。
天界でファルズフから虐げられて一人で泣いていた日々も……
群馬でひとりぼっちになって孤独に震えた夜も……
全部全部辛かったけど、今は違う!
後ろ向きに考えるのはもうおしまい。
そのせいで周りを苦しめる事を知ったから。
これからは前だけを向いて生きていくよ。
皆と一緒に今よりも、もっともっと幸せになるの。
ラスト二話になりました。




