卵の中はどうなっているんだろう?
「ペルセポネ! ペルセポネ!」
第三地区で夕食の準備をしていると、ハデスが慌てて空間移動してきた?
夕食って言っても第三地区の皆は、かなり早く眠るから明るいうちに食べちゃうんだよね。
しっかり卵を抱っこして、うろたえているけど……
どうしたのかな?
いつもお昼前に冥界からこの世界に来て『うさちゃんがお昼寝する島』に行って、夜までずっとベットで卵を温めているのに……
まさか……
卵から孵るの!?
まだ、早過ぎない!?
「ハデス!? もしかして赤ちゃんが孵るの!?」
「いや、そうかもしれないが……違うかもしれない……」
いつも冷静なハデスがこんなに慌てるなんて、何があったの?
「ハデス……落ち着いて。何があったの?」
「卵から声が聞こえてきたのだ!」
「え?」
卵から声が?
うーん……
あり得ない事ではない……かな?
産まれたその日に転がりながらベットに飛び込むような卵だからね。
「本当なのだ! 苦しい苦しいと……」
「え? 苦しい!? まさか……双子だから卵の中が狭いとか?」
「……そんな! どうしたらよいのだ!?」
「ハデスちゃんもぺるみも落ち着け。それを言うならタルタロスのコットス、ギュエース、ブリアレオースは三つ子だったんだぞ?」
おばあちゃんが卵を見つめながら話しているけど……
「おばあさん……どうしたら……赤ん坊が苦しんでいるというのにわたしは父親として何もできないのか……」
ハデスが辛そうに卵を抱きしめている。
卵の中で何が起きているんだろう?
「うーん……あぁ……そうか」
「おばあさん?」
「大丈夫だ。ばあちゃんには、あの力があるだろ? 今、ちゃんと聞いたからなぁ」
そうか。
ハデスもおばあちゃんに心を聞く力がある事を知っているんだよね。
「それで……子供達は何を苦しんでいるというのだ?」
「うーん……オケアノスがあの子守唄を歌ったみてぇだなぁ」
「オケアノスが……という事は悪夢を見るあの子守唄を?」
「いや、悪夢を見せてるわけじゃねぇんだ。ちょっと音痴なだけだ。うさちゃんを寝かしつけようとしてるみてぇだなぁ」
「子うさぎを寝かしつけようとしている?」
「元々オケアノスはベリアルを心に創り出すほど子供好きなんだ。遥か昔、子供や孫の事も溺愛してたからなぁ」
「オケアノスは子うさぎを大切に思っているという事……か? だが、子うさぎは苦しいと言っている……どうしたものか……」
「簡単だ。二人とも寝かしちまえばいいんだ」
「二人とも寝かせる?」
「卵から声が聞こえてるんなら、こっちの音も聞こえてるはずだ。ハデスちゃんとぺるみの穏やかな声を聞かせてやれ」
「穏やかな声を……?」
ハデスが考え込んだけど……
穏やかな声ってどんな声なのかな?