パパとママでずっとずっと守るから
「わたしとハデスの赤ちゃん……オケアノス、うさちゃん。卵から孵ってくるのを楽しみにしているからね。これで、お別れじゃないんだよね? これから始まるんだよね? 皆で待っているから。二人が元気に卵から出てくるのを待っているから。……安心してね。何があっても二人を守るから。誰かが二人を虐げるなら、ママがその考えを変えてみせるから。世界を変えてみせるから。だから……安心して卵から孵ってね」
卵の中の赤ちゃんに聞こえているのかな?
反応がないから分からないよ。
「ペルセポネ……それは違うぞ?」
……?
ハデス?
何が違うのかな?
「えっと……?」
「ママとパパで愚かな者達の考えを変えさせるのだ」
ハデスが『パパ』って言った?
『父上』とか『お父様』じゃなくて『パパ』って呼んで欲しいんだね。
それに……
赤ちゃんを愛している気持ちが伝わってきて、すごく心が温かくなる。
「……うん。えへへ。ありがとう。ハデスは優しいパパになりそうだね」
「優しいパパ……か」
……?
ハデスの表情が暗くなった?
どうかしたのかな?
「ハデス?」
「あぁ……赤ん坊に魂がないと分かった時……わたしは自分を責めたのだ」
「……え?」
「わたしが……多くを恨み、多くを奪ってきた罰を与えられたのだ……とな」
「そんな……! それは違うよ! ハデスはいつも、誰かの為に……だから、それだけは違うよ」
「今こうして卵を抱きしめて……心に誓ったのだ。少し力を入れたら壊れてしまいそうな卵を……何があろうと必ず守り抜く。必ず幸せにすると……」
「……うん。わたしも同じ考えだよ。一緒に守ろう。わたし達の赤ちゃんを……」
「ああ。共に守ろう。……ありがとう。ペルセポネ。わたしに親になる喜びを与えてくれてありがとう」
「ハデスが誰よりも優しい事をわたしは知っているよ。困っている魔族を陰ながら守って、甥であるヴォジャノーイ王を命がけで愛してきた事も」
「ペルセポネ……」
「いつも、自分の事は後回しで困っている誰かをこっそり助けていたよね」
「わたしは、そんなに立派ではない」
「ううん……立派だよ」
「ペルセポネ……大切な存在に認められると嬉しいものだな」
「ハデス……」
そうだね。
大好きな誰かに認められると嬉しいよね。
「命を産み出すのは……」
「……え?」
命を産み出す……?
「あ……いや。上手く言えないが……出産が命がけだという事は知っていた。だが想像以上だった。出産途中でペルセポネに何かあったらと、ずっと不安だった。何もできずにうろたえる事しかできず……すまなかった」
ハデスは、そんな風に思っていたんだね……