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やっと前を向けたけど……

「オレは、天界でひとりぼっちだったからずっと苦労してきたんだ。ぺるみは、赤ん坊にそんな思いをさせるなよ。誰よりも幸せにしてやれ。ぺるみとハデスの赤ん坊に産まれてきて幸せだって思わせてやれ!」


 やっぱり、ベリアルは天界で苦労していたんだね。


「……ベリアル」


 そうだね。

 そうだよね。

 うさちゃんとオケアノスが穏やかに過ごせるようにしないといけないよね。


「ほら、もう前を向けただろ?」


「……え?」


「オケアノスに頼まれたんだ。ぺるみの背中を押してくれって」


「オケアノスに?」


「オケアノスはずっとぺるみの中にいたから、よく分かってるんだろうな。ぺるみは傷ついてるだろうから前を向かせてやってくれって言われたんだ」


「わたしが……眠っている間に?」


「そうだ。誰よりも幸せになるからって……ヨシダのじいちゃんとばあちゃんにも、自分を捨てた事なんて忘れろって言ってた」


「……オケアノスが」


 オケアノスは完全に前を向けたんだね。


「オケアノスも前を向いたんだ。ぺるみだけ後ろ向きでいるなんてダメだろ?」


 ベリアルの言う通りだ。

 わたし一人だけが立ち止まっていたんだね。


「……うん。うん……わたし……ちゃんと前を向くよ。オケアノスとうさちゃんを誰よりも幸せにする!」


 もう立ち止まるのは終わり。

 オケアノス、うさちゃん……

 これでいいんだね。

 これでいいんだよね。


「よし! じゃあ、幸せの島に移動するぞ。これから、もっともっと幸せな事ばかりだからな。赤ん坊が二人増えて賑やかで笑いが絶えなくて……そんな新しい暮らしの始まりだ!」


「うん! ありがとう。わたし……きちんと前を向けそうだよ」


「そうか。良かった……だいたい、ぺるみは考え過ぎなんだ。難しく考えなくていいだろ? これからは大好きなうさちゃんとオケアノスが『血の繋がった家族』になる。素敵な事だろ? すごくすごく幸せな事だろ? それなのに、そんなに悩むな!」


「どうして……ベリアルに言われるまで気づけなかったんだろう。そうだよね……大好きな二人が本当の家族になる事を、ただ喜べば良かったんだ」


「そうだぞ。やっと分かったか?」


「わたし……頑張って卵を産むよ。産まれてきたら毎日温めて……卵から孵ったら世界一幸せな赤ちゃんにする!」


「はは! その意気だ! そのままスポンって産んでかわいい卵を見せてくれ! えへへ。産まれてきたらオレも温めてやるからな」


 嬉しそうに笑うベリアルに心が温かくなる。

 オケアノスも、遥か昔こんな風にベリアルに慰められていたのかな?

 真っ直ぐで赤ちゃんみたいにかわいいベリアルに……

 

 よし!

 スポンって産んでかわいい卵に早く会わないと!




 なんて思っていたけど……

 幸せの島に空間移動して五時間……

 まだまだ産まれてこない。

 っていう事は、もう十一時間経ったのか。

 確か、お母様はわたしが産まれる時に卵詰まりしたって言っていたよね。

 もしかして、今のわたしもその卵詰まりなのかな?


 やっと前を向けたのに……

 体力が限界だよ……


 いつになったらかわいい卵を抱きしめられるんだろう?

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