当たり前に見える幸せは、当たり前なんかじゃないんだ
「シアワセニ、クラセ。スウセンネンマエ、セイジュウ、トシテ、ジガイ、シテ、オケアノスニ、ナッテカラモ、クルシミノ、ナカニ、イキツヅケタ。コンドコソ、シアワセニ、ナレ! ペルセポネ!」
聖獣王が、心からぶつかってくれている。
わたしの願い……
それは……
「……わたし……わたし……赤ちゃんを元気に産んであげたい……毎日大好きって言って、髪を撫でて……お父様とハデスで赤ちゃんを取り合いして……それをお母様と笑いながら見ているの」
「……ソウカ」
「それで……赤ちゃんの一人が、女の子で……ハデスは絶対にお嫁にあげないって……言って……それで……」
「……ソレデ?」
「そんな、普通の……当たり前の幸せが欲しい……欲しいの……」
苦しくて、声が震える……
でも……
やっぱり……
わたしは赤ちゃんに生きて欲しい。
「ソレデイイ。ヨク、ガンバッタナ」
「……え?」
「ネガイハ、キキ、トドケタ」
「え? 願い……? 聖獣王?」
「オマエノ、ノゾミヲ、カナエヨウ」
「……? それって?」
「……キタカ」
「……? 来たか? 何が?」
「ベリアルが眠りながらしっかり服を握って、離してくれなくてなぁ」
この声は……
吉田のおじいちゃん?
……あれ?
急に……
眠く……
「イマハ、ネムレ。オノレノ、ヨクハ、カナエ、ラレナイ、カラナ」
己の欲は叶えられない?
それって、真実の口の力の事?
「すまねぇなぁ。もう限界なんだ。これ以上ぺるぺるの腹の子の時を止める事はできねぇ」
おじいちゃんが、わたしの赤ちゃんの時を止めていたの?
産まれてくるのを遅らせる為に?
だからお腹が膨らんでこなかったんだ。
「メガ、サメタラ、シュッサンダ。スゴク、イタイゾ。フタリ、ハイッタ、タマゴ、ダカラナ」
「すぐに腹が膨らみ始めるからなぁ。妊娠線は後で陽太に消してもらえ」
妊娠線?
何それ?
……うぅ。
ダメだ。
意識が遠退く……
目が覚めたら出産?
すごく痛い?
でも……
本当にわたしとハデスの赤ちゃんが無事に産まれてくるの?
卵を産んで、その卵を大切に温めて……
しばらくしたら自分で殻を割って出てくるんだよね?
死産になるって覚悟していたけど……
うさちゃんとオケアノスの未来を奪ってもいいの?
わたしが幸せになる為に二人の幸せを奪ってもいいの?
まだ二人ときちんと話せていないのに……
本人がいないのに勝手に話を進めるのはダメだよ。
そういえば、オケアノスは最近『眠い』って言って話しかけてこなかったよね。
うさちゃんはずっと眠っているし……
本当にわたしの赤ちゃんになりたいと思っているのかも分からない。
きちんと話さないと……
でも、こんな身勝手な話をするのは……
……ダメだ。
頭がボーっとして何も考えられない。
このまま出産する事になったらオケアノスとうさちゃんと何も話せない。
眠ったらダメ。
眠ったらダメだよ。




