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こうするしかないなんて……

「寂しいけど……その先には今よりも幸せな未来が待っているんだね」


 皆がそれぞれの幸せに向かえば、いつか第三地区に誰もいなくなる日がくるのかな?


「幸せな未来……か」


 吉田のおじいちゃんも複雑な表情になっている。

 きちんと話しておこう。

 今しかない気がするから。


「赤ちゃんが卵に入ってお腹から出てきたら……どんな未来でもわたしは受け入れるよ」


「ぺるぺる……」


「だから……」


「……だから?」


「わたしは、お腹の赤ちゃんに毎日大好きだよって伝えたいの」


 死産だって分かっていても愛しているから。

 それに、さっきベリアルが言ってくれた事を受け入れたら……

 わたしのお腹の赤ちゃんにベリアルの魂を入れたら……

 こんな事は考えたくないけど、ベリアルの魂は消滅するはずだよ。

 わたしとハデスの赤ちゃんは普通の天族とは違うんだ。

 闇に近い力を持つハデスと、オケアノスの魂を受け入れる事ができたわたしの身体……

 そんな両親から産まれてくる赤ちゃんにベリアルの魂が入ったら、身体と魂が合わずに消されてしまう。

 遥か昔、わたしの身体に入ろうとした何百もの魂が消滅したように……

 それだけは避けないといけないんだ。


「……そうか。だから……ぺるぺるの赤ん坊に入り込もうとしてる天族の魂を近寄らせねぇようにしてるんだなぁ」


「……うん」


 わたしの赤ちゃんの身体に入ったら消滅するのは分かりきっているから。

 魂は本能的に強い身体を望むんだよね。

 でも……わたしの赤ちゃんのせいで誰かが消滅するなんて嫌なの。


「……ぺるぺる。覚悟は揺るがねぇんだなぁ?」


「うん……」


 もしかしたら、わたしとハデスの赤ちゃんに入れる魂があって元気に産まれてくるかも……

 なんて考えたりもしていたけど……

 そんなに甘くはなかったね。


 でも、わたしのお腹に来てくれた赤ちゃんの為に母親としてたくさんの愛を注ぐつもりだよ。

 お別れの時に後悔しないように。

 もっともっとたくさんの愛で包んであげたかったって思わないように。

 いや、違うね。

 絶対後悔はするよ。

 どんなに愛を注いでも絶対後悔はするよ。

 命を与えてあげられなくてごめんなさいって思うはず。

 

 だけど……

 これは、なんともならない事だから……

 わたしの赤ちゃんを生かしたいからって『もしかしたら合う魂があるかも』なんて希望を持って誰かの魂を犠牲にしたらダメだよ。

 絶対に消滅すると分かっているのにそんな事をしたらダメなの。


「ぺるぺる……」


「ありがとう。でも、これはハデスとよく話し合って決めた事だから」


「……そうか」


「だから、もうこの事で辛い思いをしないで欲しいの。いつもみたいに笑っていて欲しいな。お腹の赤ちゃんもおじいちゃんの楽しそうな声を聞きたいはずだよ?」


「……そうだなぁ。……じいちゃんも毎日赤ん坊に大好きだって言うからなぁ」


「……うん。……ありがとう」


 これでいいの。

 これでいいんだよ。

 こうするしかないの。

 こうするしかないんだから。

 こうするしか……ないんだから……


 ごめんね。

 ごめんね。

 あなたを死産させる事しかできないママを赦してね。

 ううん……

 違う。

 赦さないで……

 無力なママを憎んで。

『憎まれた方が気持ちが楽だから』なんて、身勝手かな?

 あぁ……

 吉田のおじいちゃんも前に同じ事を言っていたね。

 こんな気持ちだったんだ。 

 胸が苦しくて、息をする自分が憎くなる……

 わたしとハデスの赤ちゃんは息をする事もできずに最期の時を迎えるのに。

 卵から孵れずに……

 命を始める事すらできないのに……

 わたしはなんて無力なの。

 わたしはなんて愚かなの。

 ごめんね……

 ごめんね……

 あなたに命を与えてあげられなくて……

 本当にごめん……

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