リリーと月夜(3)
今回はリリーが主役です。
「なぁ……リリー? もう強がらなくていいんじゃねぇか? 悪い魔王もいなくなったしなぁ」
ヨシダが優しく微笑みながら話しているが……
「だが……わたしは……」
「本当のリリーに戻っても大丈夫だ」
「本当の……わたしに?」
「おもしろい事が大好きで、島に小鳥が遊びに来るのが楽しみで、甘えん坊の寂しがりや……そんなかわいいリリーになぁ」
「……もう……強がらなくていいのか……?」
「欲を出せ。もう自分を抑えるな。ベリアルの隣にいてぇんだろ? 離れたくねぇんだろ?」
「……ヨシダ。それは……」
「ベリアルにぺるぺるの赤ん坊になって欲しくねぇんだろ?」
「でも……会ったばかりなのに……図々しいだろう? ぺるみとベリアルは遥か昔同じ身体にいたんだ。昨日会ったばかりのわたしとは違う……」
「ほれ、また自分を抑えた」
「……でも……ベリアルの未来をわたしが決めるのは……ダメだ」
「気持ちを伝えるのは大切だろ? 本当にベリアルが決めた道を応援できるんか? 今のベリアルが完全に消えてぺるぺるの赤ん坊になっても耐えられるんか?」
「……それは」
「素直になれ。そうしねぇと後悔するぞ? じいちゃんは素直になれなくてなぁ。今になってやっと自分の過ちを謝る事ができたんだ」
「……ヨシダ」
「リリーは他人の心の声が聞こえるけどなぁ……ベリアルには聞こえねぇんだ。声に出さねぇと伝わらねぇんだぞ? 勇気を出してみろ。世界が変わるはずだ」
「世界が……変わる?」
「そうだ。キラキラ輝く世界が訪れるぞ」
「キラキラ……輝く?」
「誰かの声が聞こえて目が覚めて、賑やかな家族に囲まれて食事をして、夜眠る前に温かいお茶を飲みながら皆で星を見る。リリーにもそんな幸せの中で暮らして欲しいんだ」
「……わたしは……この島から出たくない。怖いんだ。心の声が聞こえるのが怖いんだ」
「その力を消す事もできるけどなぁ」
「……!? そうなのか!?」
「でも……今まで嫌だった心を聞く力が突然なくなったら、不安になるだろうなぁ。今、目の前にいる奴が何を考えてるか分からねぇんだからなぁ」
「……それは……そうだが……」
「これからどうするにしても……じいちゃんはリリーを応援するからなぁ」
「ヨシダ……」
「もう、ひとりぼっちだなんて思うな? リリーが『ヨシダ』って叫べばどんなに遠くからでもすぐに駆けつけるからなぁ。もちろん『じいちゃん』って呼んでくれたらもっと嬉しいけどなぁ」
「……それは……無理だ。だってヨシダはヨシダだから。ヨシダと呼ぶ前は……『お前』と呼んでいたな」
「そうだったなぁ。じいちゃんが『ヨシダ』になったのは最近だからなぁ」
「五十年くらいか? 百年は経っていないはずだ。だが……ヨシダになる前からヨシダはわたしを守っていた。父さんと母さんが生きていた頃からな」
「そうだなぁ。でも、じいちゃんがリリーのじいちゃんだと名乗ったのは最近だけどなぁ」
「初めて聞いた時は驚いたが……ヨシダが嘘をつく必要はないからな。それに……血の繋がりのある奴がいる事が嬉しかった」
「リリーは優しい子だなぁ」
「別に優しくなんてないさ……まだ島から出る勇気はない……けど……これからも、こんなわたしを見守ってくれるか?」
「もちろんだ。リリーが心から笑えるようになるまでずっと見守るからなぁ」
「……ヨシダ。……ひとりぼっちじゃないって……いいな」
こんなにも心が温かい。
「そうか、そうか」
ヨシダが満足そうに笑っている。
勇気を出してベリアルに『離れたくない』って言ったら……
ずっとずっとベリアルと一緒にいられるのかな?