リリーと月夜(1)
今回はリリーが主役です。
ベリアルは、あの果物を上手く切れたみたいだな。
少し大きめのヒヨコか。
確かにかわいかったな。
独りになった島は静かだ。
夜だから鳥も寝ているし、噴水と波の音しか聞こえない。
「んん? リリーはまだ起きてたんか?」
「なんだ。ヨシダか」
今日は服を着ているんだな。
はぁ……
ヨシダは、いつも突然来るんだ。
「ははは。そうだ。ヨシダのじいちゃんだ」
相変わらずニコニコ笑っているな。
わたしを見つめるヨシダの瞳はいつも優しいが、その奥深くには悲しみを隠している。
だが……
今日は違う。
心から幸せそうに笑っている……?
「まだ魔法石の力は残っているぞ?」
ヨシダは噴水についている魔法石に力を入れて、この島を日に一度回転させているんだ。
まぁ、力を入れる以外にも時々話をしに来るんだが。
「そうだなぁ。まだ五年は大丈夫そうだなぁ」
「……何をしに来たんだ?」
「まぁまぁ。遊びに来るくれぇいいだろ? 今日は月が綺麗だからなぁ」
「……そうか。まぁ、いい。ベリアルはもう寝たか?」
「ああ。今日は疲れたみてぇだなぁ。ぐっすりだ」
「……そうか」
「ベリアルはかわいかっただろ?」
「……そうだな」
「どうだ? 第三地区の隣に島ごと引っ越さねぇか?」
「またその話か。だからベリアルを島に寄越したんだな」
「ばれたか……」
「どうして、わたしに気を遣う?」
「……リリーは心を聞けるから全部分かってるだろ?」
「……そうだな」
「オケアノスの子孫だから……なんて、今さら良いじいちゃんの振りなんかしても遅いけどなぁ」
「別に遅くなんてないさ。ヨシダはいつもわたしを守ってきただろう?」
「リリー……」
「この島を父さんと母さんに与えてくれたのもヨシダだったんだろう? わたし達家族が当時の魔王から生き延びる方法を教えてくれたのもヨシダだった」
「リリーと両親が子孫繁栄の実を作り続ける事を条件に、生き延びた……か……」
「子孫繁栄の実はわたし達家族がいなくても勝手に実をつけていただろう?」
「リリーはオケアノスに限りなく近い子孫だ。だから……どうしても助けたかった」
「オケアノスはぺるみの中で幸せに過ごしているようだな。バニラちゃんもベリアルの世話が楽しいようだし……」
「リリーにも……幸せになって欲しいんだ」
「わたしはヨシダとは違う。誰かの心を聞くのが嫌なんだ」
「汚ねぇ心の声を聞くのが嫌なんだなぁ」
「……そうだ。真っ直ぐな心の奴ばかりじゃないからな。前グリフォン王やベリアルみたいに清らかな心を持つ奴は珍しい」
「……まぁ、そうだけどなぁ」
「これからはベリアルも遊びに来てくれるし……寂しくなくなるさ」
「じいちゃんは……ずっと待ってるぞ。リリーがこの島から出て新たな幸せを手に入れる時を」
「……そんな日はこないさ」
「父ちゃんと母ちゃんが死んでから、この島でずっと独りだっただろ? 外の世界はすっかり変わったぞ?」
「……知っているさ。ずっとこの島から聞いていたからな。それでも怖いんだ。他の奴の心を聞いて日に日に壊れていく父さんと……そんな父さんに心を痛める母さん。人間だった母さんは短か過ぎる寿命を終えて、魔族だった父さんは寂し過ぎて病気になって死んだ。それから、わたしはずっとこの島に閉じ籠った……」
「もっと早くこの島から出してやれば良かったなぁ……」
ヨシダが辛そうに話している。
父さんと母さんが亡くなってから、ヨシダはずっとわたしを支えてくれたんだ。