レオンハルトの物語(30)
今回はレオンハルトが主役です。
「あ……いや……わたしが寝込んでしまったから」
疲れが出て倒れたようだ。
軟弱で恥ずかしい……
「白いヒヨコ様が迎えに来てくれて……」
アンが恥ずかしそうに話している……?
「白いヒヨコ様……?」
「女の子のヒヨコ様らしくて……恋する乙女を放っておけないと言っていたわ」
恋する乙女?
だから恥ずかしそうにしていたのか。
「女の子のヒヨコ様か……かわいいのだろうね」
「ええ。とてもかわいかったわ」
優しく微笑むアンの表情に心が落ち着くのを感じる。
わたしはアンを心から愛しているのだな。
そういえば、きちんとプロポーズしていなかった。
あの時死んだと思って勇気を出そう……
「……アン?」
「……ん?」
「アン……共に……プルメリアを守って欲しい」
アンの瞳がわたしを真っ直ぐ見つめている。
優しくも力強い瞳だ。
あ……
この言葉ではプロポーズとは思われないかも……
「……はい」
『はい』?
プロポーズの返事……なのか?
うーん……
分からないな……
でも……
わたしの気持ちを全て話そう。
アンを愛している気持ちの全てを。
「側室は迎えない。君だけを愛し続けるよ」
「……はい」
「重荷を背負わせてしまうけど……人々を幸せへと導く手助けをして欲しい」
「……はい」
「愛しているよ。アン……愛しい人……わたしの心を温かく……そして……ときめかせてくれる人……」
アンに口づけをすると……
柔らかくて……
でも、涙の味がする。
たくさん泣かせてしまったようだ。
愛しい人……
誰よりも幸せにするから。
ずっと君だけを愛し続けるよ。
「グスン……レオンハルトォ……」
……!?
この声は……
扉の隙間からおじい様が泣きながら覗いている!?
「(もう! 静かに! いいところなんだから!)」
この声は、おばあ様!?
「(レオンハルト! もう一度口づけを!)」
……ヒヨコ様もいるのか?
いや、違うな。
白いヒヨコ様だ。
アンが話していた女の子のヒヨコ様か。
ん?
ヒヨコ様が触れている壁にヒビが入っているような……
それにしてもおじい様達は一体いつから見ていたのだ?
……!?
マクスとマクラメとリュートもいる!?
……男爵はいないのか。
マクラメはあの話を聞いていたはずだが……
わたしが男爵の子だった事をどう思っているのだろう。
「もう! ばれてしまいましたよ! もう一度口づけするところを見たかったのに。殿下……ではなくて、陛下。おめでとうございます!」
マクラメが嬉しそうに話しかけてきたが……
「……マクラメ」
「そんな顔をしないでください。生きていれば色々な事がありますよ。それに、わたしは知っていました」
「……え?」
「わたしは情報収集のプロですから。それに父上を見ていれば分かります」
「マクラメ」
「ふふ。そんな顔をしないでください」
「……? マクラメ? 父上がどうかしたのか?」
マクスがマクラメに尋ねているが……
そうか。
わたしが男爵の息子だという事を誰にも話していないのだな。
「ふふ。父上が陛下を大好きだという事です!」
マクラメ……
わたしを兄だと知りながらずっと支えてくれていたのか。
わたしにも血の繋がった兄妹がいたのだな。
だが……
この秘密は誰にも話してはいけない。
アンに隠し事をするのは心苦しいが……
海賊の島にいる妹を守る為にも絶対にこれ以上秘密を知る者を増やしてはいけないのだ。




