レオンハルトの物語(29)
今回はレオンハルトが主役です。
「王兄の恋人は、かなり負けん気の強い女らしくてな。次期海賊の頭として島を守る存在になりつつあるようだ。だが、王兄の前では愛らしい乙女になるらしい」
王妃が笑いながら話しているが……
「そんな逸材がいたとは……お年寄りしかいないと聞いていましたが……」
「妹は……プルメリアには戻らない方がいい。それに、海賊の島の奴らが絶対に手放したくないと言っているらしくてな」
「……愛されているのか。良かった……本当に良かった」
「わたしと息子は……とりあえず父の領地に戻ろうと思う」
「……王妃!?」
「……だから王妃ではない。廃妃だ」
「お二人の未来はわたしが決めると言いました!」
「……まぁそうだな。それが決まるまで領地で待つつもりだ」
「行かないでください!」
「……え?」
「至らぬわたしを助けてください!」
「……レオンハルトは立派だ。わたしの手助けは必要ない」
「……わたしは……気が弱くていつもどうしようどうしようと悩んで……そんなわたしを叱咤激励して欲しいのです!」
「……それは王妃であるアンジェリカの役割だ。いいか? 王弟である息子がいればいずれ争いが起こる。レオンハルトが優しいのは知っている。だが……王は厳しい決断を下さなければならない時があるのだ」
……もう決めたのか。
王妃は賢い人だ。
考えを変えるつもりはないようだ。
アルストロメリア王もこんな気持ちで、弟である公爵をリコリス王国に送ったのか。
これが王になる者の孤独。
王になればなんでも叶えられる……
そんなものは幻想だ。
結局、守りたい者を近くに置く事すら叶わないのだから。
これが国を守り、民を守るという事……
己の欲を捨てなければ王にはなれないのか。
「……必ず……幸せになっていただきます。必ず幸せに暮らせる道を探します!」
「……そうか。……ありがとう」
「……え?」
「わたしは、レオンハルトの母親にずっと守られてきた。そして……これからはレオンハルトに守られるのだな」
「……守られてきたのはわたしの方です」
ずっとずっと守られてきた事も知らずに憎んでいたなんて……
わたしは本当に愚かだった。
「立派な王になれ! レオンハルト!」
「はい!」
もっと早く……
もっと早くあなたの愛に気づけていたら……
あなたと弟が幸せに暮らせる方法を必ず見つけ出します。
必ず……
こうして、寝室にアンと二人きりになった。
アンはずっと泣いている。
また泣かせてしまったな。
「アン……泣かないで……」
「だって……だって……わたし、ずっと心配で……」
「アンのヒヨコ様のぬいぐるみがわたしを守ってくれた……ありがとう」
「奇跡ね……あんなに小さいペロペロキャンディーがナイフを防いだなんて」
「そうだね……」
本当に奇跡としか言いようがない。




