レオンハルトの物語(21)
今回はレオンハルトが主役です。
「……殿下」
マクラメがいつの間にか背後に立っている!?
また、全く気配を感じなかった……
「マクラメ。無事か。良かった。あの人だかりの中はどうなっていた?」
「はい。シャムロックのおじい様と王妃が、髪を掴んだり引っ掻いたりの取っ組み合いの喧嘩をしていたのですが、そこに師匠……ヨシダさんが現れて今に至ります」
師匠か。
確か、推し活とやらをマクラメに教えたのがヨシダさんだったな。
ん?
今、取っ組み合いと言ったか?
「取っ組み合いの喧嘩!? 周りにいる者達は何をしている? なぜ止めない?」
「それが、身体が固まっているかのように動けないようで……意識があるのかも分かりません」
「……? どういう事だ……? とにかくあの中に行かなければ……」
人だかりの一番後ろの人に触れると……
なんだ?
まるで時間が止まっているかのように動かない。
怖い……
ずっと目が開いて、息もしていない?
まさか、死んでいるのか?
立ったまま?
「やめろ! この、じじいめ! ぶち✕してやる!」
……!?
王妃の声!?
こんな奴がプルメリア王妃とは……
それにしても、あまりに汚い言葉を遣う時に『ピー』と音が鳴るのはなぜだ?
ペリドットが恐ろしい事を言う時にも鳴っていたが……
「ぷはっ! (教育上よろしくねぇからなぁ)」
ん?
ヨシダさんが吹き出した?
どうかしたのか?
あ!
今は急いでおじい様を助けに行かないと!
おじい様は高齢なのだ。
今すぐ助けに行きます!
動かない人達の間をなんとか抜けると……
なんだ、これは……
鼻血を流し髪もドレスもグチャグチャになっている王妃と、シャツが引き裂かれてヨロヨロになっているおじい様が掴み合っている……
あぁ……
どうやってこれを収めよう。
このまま王妃を捕らえるのは簡単だが……
おじい様にとっては娘を殺した憎い相手だし。
「……殿下。止めますか?」
男爵が呆れながら尋ねてきたが……
「……いや、二人ともかなり疲弊しているようだ。命を奪えるほどの体力もないだろう。気の済むまでやらせよう」
「……はい。……殿下?」
「ん……? なんだ?」
男爵が深刻な表情をしてわたしを見つめている?
「マクラメと共に別の場所へ……」
「……いや。おじい様が心配だからこの場から離れる事はできない」
「……ですが」
……?
男爵の様子がおかしい?
どうかしたのか?
「お前……わたしだけが、あばずれだと!? それを言うならお前の娘も第一王子の母親も同じだろう!」
……?
王妃……?
一体何を……
「はぁ……はぁ……うるさい……うるさい! 娘は一人だがお前は二人だろうが! この、あばずれめぇぇ!」
おじい様?
二人はさっきから何の話をしているのだ?
「殿下! 早くマクラメとどこかへ!」
男爵?
なんだ?
これ以上この話を聞かせたくないように感じるが。




