レオンハルトの物語(18)
今回はレオンハルトが主役です。
「ゴホッゴホッ! 男爵大丈夫か? マクラメ、怪我はないか!?」
粉塵で何も見えないが……
壁が崩れてきたはずなのに痛くない?
どうなっているのだ?
「ふふ。わたしは大丈夫です。殿下が守ってくれたから」
抱きしめているマクラメが笑っている?
「マクラメ……恐ろしくないか? 何も見えないが……わたしから離れるなよ? 絶対にわたしが守るから!」
「殿下……殿下こそ大丈夫ですか?」
「わたしは平気だ。男爵は大丈夫か?」
姿が見えないが無事だろうか?
「はい。崩れてきた壁を剣で粉々にしました」
「え? 粉々に?」
だから粉塵が酷いのか。
さすが戦場の死神と呼ばれる男爵だ。
「殿下……ありがとうございます」
男爵がわたしに礼を言った?
だが……
「礼を言うのはわたしの方だ。男爵がいなければ大怪我をするところだった」
「身を呈して娘を助ける殿下のお姿……しかと我が目に焼き付けました」
男爵の声から喜びのようなものを感じる?
気のせいか?
「……男爵?」
「さぁ! 陛下の元に急ぎましょう!」
粉塵の隙間から男爵の姿が少しだけ見えてきたが……
「……男爵。待ってくれ……」
「……殿下?」
「わたしは……父上に王座を降りてもらう」
「……危険です。それ以上、口に出してはいけません」
「それでも! わたしは! ……わたしは……父上に王座を降りてもらう。これ以上王妃の好き勝手にはさせない。父上は優しいのではない。優しいのではないのだ! 王妃の父親に怯え、己の身を守る為には子供の命などどうでもいいと思っている……ただの臆病者だ!」
「殿下……」
「この世界は変わろうとしている。四大国の王達と共にわたしもこの世界を変えていきたい。いや、変えなければならないのだ! 皆が笑顔で過ごせる世界に変えていくのだ!」
「……本当に殿下は変わりましたね。生前のお母上のようです。真っ直ぐで力強い瞳……」
「男爵……?」
「お母上は常に凛々しく、常に正しいお方でした」
「母上……確かに母上はシャムロックの王族らしい真っ直ぐで豪傑な……だが、なぜ男爵がそれを?」
「お母上に……一度殴られた事がありました」
「……!? ええ!? なぜ!?」
「もっと子を大切にしろ。戦場の死神と恐れられても家に帰れば優しい父親でいろ……と」
「母上が……?」
「いつか別れる時に後悔しないよう日々愛していると伝えろとも言われました。あの頃のわたしは家族を省みず国の為に多くを奪い、殺してきました」
「男爵……」
「いつ死ぬか分からぬのが戦……だからこそ、大切な家族といつ別れてもいいように悔いのないようにしろと」
「母上……」
いつ死ぬか分からないのが戦……
母上にとっては、家であるはずの宮が戦場だったという事か?
いつ王妃に命を奪われるか分からない戦場……
だから、毎日わたしに愛していると言っていたのか。




