レオンハルトの物語(11)
今回はレオンハルトが主役です。
「弟を生かしておけば火種になる可能性がある。だが殺してしまえば今のアルストロメリア公爵のように幸せに暮らせたかもしれない未来を奪う事になる。難しいな……」
おじい様の言う通りだ。
「……はい」
「王妃次第だ」
「王妃次第とは?」
「その時が来れば分かる……レオンハルト?」
「はい?」
「『王になる』とは、良い事ばかりではない。いや、違うな……嫌な事ばかりだ。信頼している者に裏切られたり、いいように利用されたり……何よりも辛いのは罪を犯した臣下の命を奪わなければならない事だ」
「おじい様……」
いつもフラフラ遊び歩いているおじい様もそんな辛い思いをしてきたのか……
「何を偉そうに言っているの!? あなたはずっと遊び回って、王として何もしてこなかったでしょう!?」
……!?
おばあ様の拳がおじい様の腹部を殴り上げた!?
いや……
殴り上げるという言葉はないか?
だが言葉通りおじい様の身体が殴り上げられている。
すごい……
高齢のおばあ様の腕にあんな力があるなんて。
恐ろしい……
この人にだけは逆らってはいけない。
「うぐふぅぅぅ……」
あぁ……
おじい様が甲板に倒れ込んだけれど誰も心配していない。
これが日常なのか。
「さて、このバカは放っておいて……そろそろヘリオスが出発した頃かしら」
シャムロックの船は大量の大砲の重さで速度が遅い。
ヘリオスはリコリス王として今回の件に関わる事になっている。
この船に乗り共に行くよりも、別の船で行く方が目につきやすい。
民から慕われるリコリス王が他国の王妃を討つ計画に協力していると広く知れ渡れば今後の事を進めやすいと考えた。
わたしが王妃を討つ大義名分……
王妃が今までしてきた愚かで恐ろしい行いを全て白日の下に晒し、わたしがプルメリアに乗り込んだ事への正当性を明らかにする。
その為には王妃を捕らえ、幽閉されている父上を救い出さなければならない。
できれば王妃とその父親には公開処刑になって欲しいが……
母上を毒殺した王妃を自らの手で討ちたいという気持ちもある。
だが、幼い弟も処刑台に上るのか……
できれば生かしたいが……
どうすればいい?
この件が無事に終わり弟を生きたままプルメリアに残しても、それは幸せなのだろうか?
母親である王妃と共に処刑された方が幸せではないのか?
それともどこかに逃がす?
一体どこに?
誰にも知られずに生き続けられる場所があるのか?
生存していると知られたらすぐに命を奪われるはずだ。
それを恐れながら暮らすくらいならいっそ一思いに……
……ダメだな。
わたしはプルメリアの王になれる器ではないのかもしれない。
こんな時、ペリドットならどうしていたのだろう?
何としてでも弟を助ける道を探したか?
それとも命を奪った?




