大好きな第三地区(12)
「そうだなぁ。幸せの島は常夏だから群馬の集落とは全然違うよなぁ」
吉田のおじいちゃんの言う通りだね。
「どうして戦争なんてするんだろう……皆で仲良くした方が絶対に楽しいのに」
「自分の強さを示す為……自分の地位を守る為、自分が生き残る為……か?」
「吉田のおじいちゃんはオケアノスを守る為にあの世界を創ったのに……殺し合いをする為に創ったんじゃないのに」
「ぺるぺる……信じよう」
「……信じる?」
「そうだ。この世界は変わりつつある。人間と魔族が少しずつ仲良くなり始めてる。人間の身分制度もそうだ。ゆっくりゆっくり変わり始めてるだろ?」
「……うん」
「今回の事で向こうの世界も変わり始めるはずだ」
「おじいちゃん……」
「じいちゃんはそれを見守るつもりだ」
「……え? まさか……群馬の集落に戻るつもりなの!? おじいちゃんがいなくなるなんて嫌だよ!」
「ん? ははは! いなくならねぇさ。じいちゃんの家は、この第三地区にあるからなぁ。ここから、お月ちゃんと見守るつもりだ。あの世界がどう変わっていくのかを」
すごく穏やかな表情だね。
「そう……」
おじいちゃんは信じているんだ。
あの世界が美しいまま続く事を……
「皆に聞いて欲しい事があるんだ……」
「……? おじいちゃん?」
すごく真剣な表情になったけど……
「オレは……酷い父親だった。容姿が他と違うからってオケアノスを捨てる為の世界を創った。それがこの『人間と魔族の世界』だ。本当に酷い父親だなぁ。でも、後悔したんだ。オケアノスの傷つく姿を隣で見続けながらずっと後悔してたんだ。オケアノスの苦しみを作ったのはオレだから……ガイアからは息子を奪い、優しい息子のクロノスには孫達を飲み込ませた。オレは本当に最悪な奴だった」
バニラちゃんが悲しそうにおじいちゃんを見つめている。
わたしの中にいるオケアノスは何を思っているんだろう。
「ぺるぺるの中にいるオケアノス……バニラ……本当にすまなかった。そして、愚かなオレのせいでこの世界に創り出された皆にも心から申し訳ねぇ事をしたと謝りてぇんだ」
おじいちゃんの瞳に涙が溢れている。
見ているわたしまで涙が出てきたよ。
「これからは皆が幸せに暮らす姿を見守るつもりだ。それを……許してもらえるか? こんな愚かなオレに皆の幸せな姿を見続ける事を許してもらえるか?」
いつもふざけているおじいちゃんの声が震えている。
話を聞いている皆も真剣な表情でおじいちゃんを見つめているね。




