大好きな第三地区(8)
「わたしもそうだよ。自分の無力さに絶望する事ばかりだよ。でもね? そんな時は大好きな皆に話を聞いてもらうの。そうすると前に進む方法に気づけたりするんだよ」
一人で悩んでいると、どんどん悪い方に進んじゃうんだよね。
「あの幼かった月海が立派になって……」
「この世界に生きる者達に良くしてもらっているんだな。安心したぞ」
「聞いたわよ? 結婚したのね。おめでとう」
「棒切れを持って山を駆け回っていた、あの月海がなぁ」
棒切れ?
わたしが小学生の頃だよね?
「精霊の皆はずっとわたしを見守っていたの?」
「月海だけではない。あの世界に生きる全ての者を見守っていた」
「そうね。でも、それももう終わってしまったわ」
「これから我々はどうしたらいいんだ」
「この世界には既に精霊がいるようだしな。我らには何もする事がない」
「やる事がない? あはは! やる事は山積みだよ」
「え?」
「山積みとは?」
「我らにはこの世界の事は何も分からないし……」
「この世界に馴染めるのかも不安で」
「皆がやる事はこの世界を楽しむ事だよ。大丈夫。この第三地区の皆は元々群馬の集落にいたおじいちゃんやおばあちゃんなの。それに、魔族は皆優しくてね。人間は酷い身分制度に苦しみながらも前に進もうって頑張っているの。精霊の皆は優しくて、楽しい事が大好きなんだよ。皆、向こうの世界の精霊達がこの世界に来るのを楽しみにしていたの」
「仲良くできるだろうか」
「初めての場所で心配なの」
「こんな我らでも役に立てる事があるのか?」
「そうだな……」
「ふふ。大丈夫だよ。わたしもそうだったの。群馬の集落で溺死してこの世界に来たばかりの時は不安でね。でも、すぐにこの世界の事が大好きになったの。それはね……この世界の皆がわたしを心から愛してくれたからなんだ。だから……ちょっと遅くなったけど言いたい事があるの」
「言いたい事?」
「何かしら……」
「群馬の集落でわたし達を見守ってくれていた精霊の皆! 第三地区へようこそ! 集落では皆の姿が見えなくてごめんね。でも、これからは毎日いっぱい話していっぱい笑ってたまにはケンカをして……そんな風に仲良くなっていきたいな」
「月海……」
「不安な気持ちもよく分かるよ。わたしもそうだったから。そんな時に言われたの。辛い気持ちを言葉にして伝えたら一緒に前に進んでくれるのがここにいる皆だって。わたしが泣いたら一緒に泣いて、わたしが笑ったら一緒に笑ってくれるのがここにいる皆なの。魔族も天族も人間も……種族なんて関係なく、ここにいる皆はわたしの家族なんだよ」
皆、皆、大好きな家族なの。




