大好きな第三地区(4)
「……ルーチャン?」
わたしの、色々な感情の入り混じった表情を見たピーちゃんが心配そうにしている。
「その愚かな先祖のせいで、子孫達はずっと苦しんできたの。自分達には掛け算の謎が解けないって……」
「……ソノ、オンナノコハ、イマ、ドウシテイルノ?」
「アカデミーの人間達と掛け算の謎を解くって頑張っているよ。わたしが教えるのは簡単だけど、それじゃダメなんだよ。それに……瞳を輝かせて言っていたの。いつか掛け算の謎を解いて、わたしがいる島までその知らせが届くようにしたいって」
「……ステキナ、カンケイ、ナンダネ」
「聞きたくなかったかな? 嫌な気持ちになったよね。自分を殺した子孫の話なんて嫌だったよね……」
「ウウン。オシエテ、クレテ、アリガトウ。ソッカ……ズット、クルシンデ、イタンダネ」
「レアーおばあ様に言われたの。いつもと変わらない日常でも、全てに意味があるんだって。小さな何かが、後になって大きな何かに変わっていくんだって。お父様が群馬に行った事も、ピーちゃんがこの世界から群馬に戻った事も、ばあばとブラックドラゴンのおじいちゃんが群馬で暮らしていた事も……何かひとつでも違っていたらあの世界は助からなかったの」
「ルーチャン……」
「ピーちゃん、ありがとう。あの世界を助けてくれて……本当にありがとう」
「……ウン。ルーチャンモ、アリガトウ」
「……え?」
「ボクニ、チカラヲ、カシテクレテ、アリガトウ」
ピーちゃんと微笑み合うと心が温かくなる。
あぁ……
今まで色々な事があったね。
群馬では、おばあちゃんと二人暮らしだった。
おばあちゃんが亡くなった後すぐにわたしも溺死して……
目が覚めたら死の島の波打ち際で赤ちゃんになっていたんだ。
ふふ。
ママに食べられそうになったけど、いきなりおっぱいに吸いついて驚かれたんだよね。
その後すぐに、じいじが現れてわたしを魔王の娘だって言い出して。
でも、その頃のわたしにはよく分からなくて。
あぁ……
その時パパが作ってくれたご飯がおいしかったのも覚えている。
赤ちゃんだったわたしの口の周りについているご飯を見てヨダレを垂らしていると思っていたけど……
わたしがおいしそうでヨダレを垂らしていた事を知った時には身体が震えたよ。
巨大なキャンディを食べながらわたしを食べないように我慢していたんだよね。
パパとママとじいじは、わたしを抱っこしたくていつも取り合いになっていたっけ。
そうそう。
ウェアウルフ族とグリフォン族が死の島に攻め込んできて、その時にわたしの血の力で死者が生き返ったり荒れた島が元通りになって。
それから魔族に聖女様って呼ばれるようになったんだっけ。
生き物が住めないと言われて魔族でさえ寄りつかなかった死の島は、この時から幸せの島になった。
いや……
……違うね。
わたしが死の島に初めて来た日から、幸せの島だったんだよ。
群馬の集落でひとりぼっちになったわたしに優しくて温かい家族ができた日。
あの日から『死の島』は、わたしの『幸せの島』になっていたんだ。




