スラスラと嘘をつく自分が怖い
「すごい……オレ達が貴族を追い返したのか?」
「罪に問われないのか? 心配だ」
「でも自分から帰ったんだそ?」
市場の人間達は、自分達で貴族の坊っちゃんを追い返した事に驚いているね。
この世界の身分制度は日本人だったわたしには怖いくらいだからね。
一部の貴族は平民を人間だと思っていないんだ。
……違うね。
一部の貴族しか平民を人間だと思っていないって言う方が正しいね。
お兄様はこの『貴族の為だけにあるようなリコリス王国』を変えていこうとしているのか。
大変な事だよ。
貴族が簡単に許すはずがない。
それでもお兄様は頑張っているんだね。
わたしも陰ながら協力できたらいいんだけど。
神様の娘であるわたしが、でしゃばるわけにはいかないよね。
今回リコリス王国でアカデミーに通う事になったのも、神様であるお父様が高校生だったわたしを溺死させて高校を卒業できなかったお詫びっていう名目だし。
「じゃあ、わたしは蚕に話してくるよ」
空間移動の光は神様の心だって言っちゃったから市場で空間移動はできないね。
どこかの建物の影でしようかな?
あ……
忍者になりきっているおばあちゃん達はどうしようかな?
「えっと……護衛の……その……忍者達はどうしようか?」
リコリス王国にはタウンハウスにいるルゥのおばあ様に話があるからまた戻ってくるけど。
護衛なら蚕の所にも付いてくるのかな?
蚕にはこっそり話しに行きたいんだよね。
皆が来ると騒がしくなりそうだからできれば第三地区に戻って欲しいんだけど。
吉田のおじいちゃん、第三地区で待っていてくれるかな?
二、三分で帰ってくるから。
わたしの心の声が聞こえているよね?
「姫様、我ら忍びは姫様から離れるわけにはいきません。どこまでもお供いたします」
吉田のおじいちゃん!?
言っている事はすごくまともだけど顔がにやけているよ?
はっ!
まさか……わたしが蚕達に『お願いだから繭を作らないで』って頼む姿を見て笑いたいんじゃ?
『ぷはっ! ぺるみってば蚕とお話しするなんて頭大丈夫か? 』って笑いたいんだ!
「ぷはっ! 姫様、急ぎましょう」
ほら!
やっぱり笑っているよ!
「聖女様、この変わった服の人達は護衛ですか?」
「全身黒い服だし顔も目しか出てないし」
「騎士みたいな感じかな?」
この世界に忍者はいないからね。
分からないよね。
「えっと……少し離れた場所から陰ながら助けてくれるの。黒い服は昼は目立つけど夜は闇に紛れ込めるでしょ?」
「そうなんですか。でも、離れてたんじゃ危ない時に助けられないんじゃないですか?」
さすが、市場の相談役のおじいさんだね。
その通りだよ。
「我ら忍びは忍術を使える。ほら、これだ」
おぉ……
吉田のおじいちゃんが忍者っぽく話しているよ。
風の力で小さい竜巻を出したね。
初代の神様だからもっとすごい事ができるはずだけど今は吉田のおじいちゃんだからね。
今の神様が与えてくれた事になっている、風の力だけを使っているよ。
「おお! すごい!」
「聖女様は今はどこかの国のお姫様なんですか?」
「神様が授けてくださったこの身体は魔素で閉ざされていた国の王女だったの」
また簡単に嘘をついちゃったよ。
自分が怖いね。
スラスラと嘘が出てくるよ。