おばあ様はすごいんだね(3)
「会いに行きましょう? ね? ハデス」
お母様がハデスの手を優しく握ったね。
ハデスは数千年振りにお母さんに会えるんだね。
二人の話が終わるまでもう少し黙っていよう。
「……なぜ、わたしだけ母上の記憶を消されたのだ?」
ハデスが辛そうに話している。
確かに、どうしてハデスだけが記憶を消される必要があったんだろう。
「それは……」
お母様が話しにくそうにしている?
重要な秘密があるのかな?
「それは?」
ハデスが真剣な表情で尋ねているね。
「ハデスに『母上』と呼ばれたら、助けに行かずにいられないと思ったらしいわ」
「……え?」
「お母様は子供達を何よりも愛しているから」
「……確かにそうだな」
「お母様が、ヴォジャノーイ族になったハデスをすぐに冥界に戻さなかったのにはわけがあるのよ」
「……それは?」
「闇に近い力のせいでずっと傷ついてきたハデスに魔族を愛して欲しいと思ったようね。天族には時々魔族のような容姿の赤ん坊が産まれる事があるでしょう? お母様は、もしかしたらハデスにもそういう子が産まれるかもと思ったのよ」
「……そうなれば、わたしも自らの子を捨てたり飲み込んだりすると思ったと?」
吉田のおじいちゃんもクロノスおじい様もそうしたから、ハデスもそうすると思ったのかな?
「……ハデス? 今のあなたなら絶対にそんな事はないわね。ペルセポネとの子にそんな事はできないでしょう? どんな容姿でも愛せるはずよ」
「わたしも……ずっと同じ事を考えていた。もし、あのまま冥界でペルセポネとの子を授かっていたら……冥界は死者の世界で子は授からないが……もし、授かった子が魔族のような容姿だったら……酷い事をして傷つけていたかもしれないと……」
「でも、今は違う。そうでしょう? ゼウスも天界に戻ったし、お母様が魂を分ける必要はなくなったの」
「母上は、わたしが父上やヨシダのおじいさんと同じ道を辿らぬように見守っていたのか。わたしの心が自らの子を受け入れられるようになるのを待っていたのだな」
「ハデス……会いに行きましょう。さあ! お母様が待っているわ」
母親の愛……か。
子供が道を間違えないようにずっと見守っていたんだね。
本当はすぐ近くで守りたかったはずなのに、我慢して魂だけを近くに置いたんだ。
ハデスのお母さんで、わたしのおばあ様……か。
どんな天族なんだろう。
……あれ?
ちょっと待って。
おばあ様……?
会った事が無いと思っていたけど、遥か昔は普通に会っていたよね?
ファルズフの毒が辛くてよく覚えていない事もあるけど、毎日のように会いに来てくれていたよ。
どうして思い出さなかったんだろう。
わたしも記憶を消されていた……とか?
でも、そんな必要はないよね。
あの頃は朦朧としている事が多かった……
だとしたら他にも忘れている事があるのかな?
 




