悪い事をしたのに優しくされると心が痛くなるよ
幸せの島のすぐ隣にある『うさちゃんがお昼寝する島』にうさちゃんを迎えに行き、ソファーごと冥界に空間移動する。
はぁ……
泥棒は、絶対にダメだね。
「ペルセポネ……大丈夫だったのか?」
ハデスが心配そうに話しかけてきたね。
ケルベロスも疲れきった顔をしているわたしを心配しているみたいだ。
「うん。心配かけてごめんなさい。わたし……悪い事をしたの」
「悪い事?」
ハデスがわたしの震える手を握ってくれたけど……
「……うん」
わたしが泥棒したって知ったら嫌われちゃうかな?
「手が冷たい……大丈夫か?」
こんなわたしを心配してくれるなんて……
「わたし……わたし……」
話さないといけないのに……
嫌われそうで話せないよ。
「……誰かを殺したのだな? アカデミーの誰かか?」
……!?
え!?
「えっと……」
泥棒したって早く話さないと……
「後始末はできたか? 遺体は放置したままか?」
……!
わたしが遺体を放置したままだったら後始末しに行く勢いだよ。
「違うの! 泥棒! 泥棒しちゃったの!」
早く話さないと大変な事になりそうだよ。
「……泥棒?」
「……うん。学長とジャックがしていた交換ノートを勝手に持ってきて冥界に隠そうとしたの。恥ずかしい事が書いてあるノートを誰にも見られたくなくて……」
「ペルセポネ……」
ハデスが心配そうにわたしを見つめている。
「わたし……酷い事をしちゃったの。大好きな学長とジャックを傷つけるなんて最低だよ」
「そうだったのか。それで慌ててアカデミーに返しに行ったのか?」
「……うん。ずっと胸が痛かったの。オケアノスが背中を押してくれて、騒ぎになる前に返せたけど……泥棒をした事実は消えないから」
「ペルセポネ……」
「わたしの事が嫌いになった? 悪い事をしたから嫌いになった?」
「……いや。話してもらえて嬉しかった。てっきり大量殺人をしたのかと思ったが……そうか泥棒か」
「ハデス……」
呆れられたかな。
当然だよ。
嫌われても仕方ない事をしたんだから。
「よく話してくれたな。もう震えなくていい。そうか……苦しかったな」
「……ハデス」
優しくされると、もっと心が痛くなるよ。
「わたしにも、同じような事があった」
「ハデスも?」
「初めて泥棒をした……あれはまだ父上に飲み込まれるずっと前の話だ」
「ハデスが子供だった頃の事?」
「ああ。つまらない話だが聞いてくれるか?」
暗殺とかはするけど、まじめなハデスが泥棒なんて……
よほどの事があったんだろうね。
「ハデスが辛くないのなら……」
こうして、わたしはハデスの幼少期の話を聞く事になった。




