蚕でギャフンと言わせちゃおう作戦
「あ! でも、もっといい方法があるかも! 市場の皆も手伝ってもらえるかな? 没落したからって坊っちゃん親子が心を入れ替えるとは限らないからね」
「え? 我々ですか?」
市場の皆が首を傾げているね。
「うん。蚕が繭を作らなくなるのには原因があるの。それを市場の誰かが知っているっていう事にして欲しいの」
「その方法をペリドット様がご存知ならばご自身でお伝えになられては?」
公爵の言う通りだけど、わたしが教えたらダメなんだよ。
「それじゃあ、坊っちゃんが市場の皆に謝らないでしょ? 市場の皆の事を尊敬できる立派な人間だって分かって欲しいの。生きる価値も無いなんて絶対に違うんだから!」
「ペリドット様……」
公爵は元王族だからね。
もしかしたら坊っちゃんに考えが近いのかも。
「でも、蚕が繭を作らない理由なんてオレは知らないです」
「お前は知ってるか?」
「オレも知らないな」
市場の皆には分からないよね。
だってわたしが蚕にそうさせるんだから。
「わたしが蚕にお願いするんだよ。『少しの間だけ繭を作らないで』って」
「「「え?」」」
皆が驚いて変な声を出したね。
まぁ、その反応が正しいよね。
頭大丈夫かな? って思っているはずだよ。
「一応、神様から授かった身体だから蚕も言う通りにしてくれるんだよ? 信じられないかもしれないけど。だからね? わたしが特別おいしい桑の葉を蚕にあげるからって言って少しだけ繭を作るのを待ってもらうの。それに慌てた伯爵が蚕のプロの市場の人間に助けを求めてくるっていう作戦だよ?」
繭を生糸にする為に、生きたまま煮られちゃう蚕のサナギを利用するなんて申し訳ないけど。
ウェアウルフ族にお願いして世界一おいしい桑の葉を用意してもらうからね。
「そんなに上手くいきますか?」
護衛の一人が不安そうな顔をしているね。
「ふふふ。それが上手くいくんだよ? 護衛の二人にも協力してもらいたいの。いいかな? 上手くいけば坊っちゃんも少しは大人しくなるはずだよ?」
「(どうする?)」
「(やりたいです)」
「(上手くいけば邸宅のメイド達にも優しくなるかもしれないな)」
「(はい)」
決まったね。
メイドにまで嫌がらせをしているんだね。
坊っちゃんたら最悪だよ。
「じゃあ護衛の二人は蚕が繭を作らなくなったと領地から連絡が来たらこう言って? 『露店商市場に蚕のプロがいる』って」
「はい!」
良い返事だね。
普段から虐げられているのが分かるよ。
「市場の誰をプロにする? もちろん怪我が無いように護衛をつけるからね?」
問題は誰がこの大役をするかだよ。
演技力も必要だし。
「わたしがやります。市場の相談役ですから」
「ありがとう。おじいさん。絶対に危ない目には遭わせないからね?」
「……危ない目に遭ったとしても、わたしはやりたいんです。これ以上貴族にやられっぱなしなんて嫌なんです。殴り返すなんて絶対にできない。でも、自分にも知識があると……生きている価値が無いなんて間違いだと思わせたい。見返したい!」
「うん! そうだよ! 皆で思い知らせてやろう!」
こうやってわたし達の『蚕でギャフンと言わせちゃおう作戦』が始まった。
でも、とりあえず今はこの目が痛い坊っちゃんをなんとかしないとね。
はぁ……
面倒だね。
殴って言う事を聞かせた方が楽だけど……
市場の人間の為に頑張るよ。