自分の為に生きる……か
マグノリア王国でのベリアルのぬいぐるみの洗濯を終えると第三地区に帰ってくる。
これからもマグノリア王とは『洗濯師』として会う事になるんだよね。
魔術戦の時に今生の別れみたいに話した自分が恥ずかしいよ。
でも、これからも人間と関われるのは嬉しいんだ。
「ぺるぺるは帰ってきたんか」
おばあちゃんの家の外で、吉田のおじいちゃんが話しかけてきたけど……
「うん。ただいま。ねぇ、吉田のおじいちゃん?」
「ん? なんだ?」
「どうしてマグノリア王に直接、隠し部屋の日記を渡さなかったの?」
「あぁ。それか……そうだなぁ。じいちゃんより、陽吉が話した方が良いと思ったんだ」
「吉田のおじいちゃんよりも野田のおじいちゃんの方が良いの? まぁ確かに野田のおじいちゃんは裸踊りをしないからね」
「ははは! そうだろ? じいちゃんは、ふんどし踊りの達人って設定だからなぁ。マグノリアに行く時は毎回ふんどしだろ?」
「え? いつの間にそんな設定になったの? 普通に服を着ていけばいいんじゃ……」
「ふんどし姿が気になって、真面目な話をしても胸に響かねぇかと思ったんだ。この世界にはふんどしがねぇからなぁ。ほぼ裸体の奴なんていねぇんだ。でも、陽吉、陽子、陽太か……野田の家は皆、『陽』の字がつくんだなぁ」
そんなに、ふんどし姿で行きたいのかな?
「わたしもおばあちゃんの『月』の字をもらって月海だよ? あ、でもお父さんは星治だよね。月の字を使わなかったんだね」
「んん? そうだなぁ。お月ちゃんの家は、男には『星』の字、女には『月』の字をつけてたみてぇだからなぁ」
「……え? 今の第三地区のおばあちゃんの家に男のご先祖様はいないけど……」
皆、女性だよね?
「ん? 別の家に住んでるからなぁ。先祖って言っても、会った事がねぇくらい年が離れてるからなぁ。同性だったり、年が近い者同士に分かれて暮らしてるんだ」
「そうだったんだね。じゃあ、おばあちゃんの家に住んでいるおばあちゃん達以外にもわたしのご先祖様はいるんだね。あ、そうか。雪あん姉もお兄さんがいるって言っていたよね。でも、お兄さんは『空にちなんだ名前』をつけるようになる前に生まれていたから『星』の字はつかないのか……」
「そうだなぁ。雪あん姉も幸せそうで良かった。狼の兄ちゃんが相手なら安心だ」
「うん。群馬の集落では、ずっと苦労してきたみたいだからね」
「集落の奴らは雪あん姉を守る事を、雪あん姉は集落の奴らを守る事を考えてたんだよなぁ。誰か一人が犠牲になればいいなんて考える奴は一人もいなかったんだ」
「うん……素敵な関係だよね。あの集落は雪あん姉が暮らしていた頃も、わたしが暮らしていた頃も皆優しかったんだね。お互いの幸せを思い合っていたんだよ。それは、なかなか難しい事だよね」
「マグノリア王にも、それに気づいて欲しかったんだ。王だからって自分のやりてぇ事を我慢して、ただ民の為に生きるなんて悲し過ぎるだろ? 今まで民を幸せにしてきた分、今度はマグノリア王自身にも幸せになって欲しかったんだ」
「……そうだね」
「もう、高齢だからなぁ。残りの時間を自分の為に使ってもいいと思うんだ」
「ベリアルと野田のおじいちゃんと吉田のおじいちゃんと一緒に旅行をするなんて楽しそうだね。あ、側付きの二人もだったね」
「そうだなぁ。これからは、王としてじゃなく自分の為に生きるんだ。今までは民の為に苦労ばかりしてきたからなぁ。やりてぇ事を片っ端からやればいい」
やりたい事を片っ端から……か。
そうだね。
マグノリア王は自分の全てを犠牲にして王として過ごしていたんだから。
これからは自分のやりたい事をして欲しいよね。




