王になる為の険しい道……か
「……王とは……虚しいですなぁ。国の為に生きても……このような最期とは」
マグノリア王もわたしと同じ考えなのかな?
すごく辛そうな表情で日記の表紙を見つめている。
「マグノリア王が死ぬ直前に思う事はなんだろうなぁ」
野田のおじいちゃんが優しく尋ねている?
「ノダ殿……?」
マグノリア王が小さく呟いたね。
「オレが死ぬ直前に思ったのは……若くして突然死んじまった孫と、一人で残される娘の事だった」
死ぬ直前?
群馬で亡くなった時の事かな?
「ノダ殿? 『死ぬ直前』とは?」
「んん? あぁ……『死にかけた時』の言い間違いだ」
さすがに異世界で亡くなった後に、この世界に来たなんて言えないよね。
「そうでしたか……」
「マグノリア王は最期の時に何を思うんだろうなぁ?」
「……何を……思う……?」
「『立派な王だった』って満足して死ぬんか? それとも『一人の男としてやりたい事を何ひとつできなかった。王になんかなりたくなかった』って悔やむんか?」
「一人の男としてやりたい事……?」
「マグノリア王には『立派な王』以外にやりたい事は、ねぇんか?」
「やりたい事……?」
「オレには、やりたい事がいっぱいあるぞ? 健康なんて気にしねぇで旨くてこってりした油物を腹いっぱい食って、旅行もしてぇなぁ。それから、かわいい姉ちゃんにガツガツ来られたら堪らねぇよなぁ。うへへ……」
「ノダ殿は煩悩の塊ですなぁ……」
マグノリア王が呆れているね。
でも、明らかにさっきまでとは顔つきが変わったよ。
すごく穏やかな表情だ。
野田のおじいちゃんの欲が他人を傷つけないものだったからかな?
それとも、あまりに欲がなさ過ぎるものばかりだから?
王様をしているから今まで他人の欲望を嫌っていうほど見てきたんだろうね。
マグノリア王は、自分の欲を一度も口に出した事がなかったのかな?
もしかして考えた事もなかったとか?
国の事だけをずっと想い続けて、自分の事は後回しにしてきたのかも。
「自分の人生だろ。他人に迷惑をかけねぇ事なら、やってもいいんじゃねぇか?」
野田のおじいちゃんが屈託なく笑いながら話しかけているね。
わたしもマグノリア王には、やりたい事をやって欲しいよ。
「……思い出しました。まだ幼い頃……兄弟が生きていて……大きくなったらまだ見ぬ宝を探しに行こうと約束した事を」
マグノリア王が野田のおじいちゃんを見つめながら微笑んでいる……?
幼い頃を思い出しているのかな?
「そうか、そうか」
「その兄弟を……わたしは……」
マグノリア王が辛そうな表情になったけど……
王位継承の時に色々あったんだろうね。
「王になる道は険しくて……なったらなったで、さらに険しい道が待ってるんだなぁ」
「……はい」
「兄弟も分かってるさ。王になる為の険しい道をなぁ。マグノリア王……まだ見ぬ宝を探しに行ったらどうだ?」
「……え? ですが……わたしはもう高齢で……船に乗っての長旅は……」
「ははは! 船なんて必要ねぇさ! ヒヨコちゃんがいるだろ」
「ヒヨコ様……ですか?」
「ヒヨコちゃんは、よく世界中を旅してるんだ。一緒に行けば楽しいぞ?」
「ヒヨコ様と旅行……?」
「行った先でお菓子でも買ってやれば大喜びだ! ははは! 『じいちゃん大好き』とか言われたりしてなぁ」
「……それは楽しそうですなぁ。ヒヨコ様とまだ見ぬ宝を……」
「後悔しねぇように生きるんだ。オレは……マグノリア王の事が結構好きだぞ! ははは!」
野田のおじいちゃんは、この話をする為に付いてきたのかな?




