野田のおじいちゃんは大興奮だね
「おお! これがマグノリアの城かぁ」
野田のおじいちゃんが大興奮しているね。
この世界では珍しい日本人顔だからフードを深く被っているけど……
周りを見たくてキョロキョロしているからフードから顔が見えちゃいそうだ。
「(野田のおじいちゃん……少し落ち着いて)」
わたしは声を出したらダメな設定だから小声で話さないと。
「大丈夫だ! じいちゃんは落ち着いてるから。ん?」
落ち着いているって……
さっきからそこら辺にある物を触っては、案内してくれている人間にチラチラ見られているよね?
しかも、この人間は何度も会っているマグノリア王の側付きだ。
でも、野田のおじいちゃんじゃなくてわたしを見ているような?
うわ。
また違う物を触り始めたよ。
どれも高そうだから壊したら大変だ。
「おい! 見てみろ! 映画とかだと、こういうちょっと飛び出したレンガを押すと矢が飛んできたりするんだ。それとも落とし穴か?」
「え!?」
野田のおじいちゃんが明らかに怪しそうなレンガを押した!?
これって、まずいんじゃない!?
しかもカチって聞こえたよ!?
……?
あれ?
何も起こらないね。
はぁ……
良かった。
「おい! こっちにも変な置物があるぞ! 映画とかだとこういう置物を回転させると秘密の扉が開いたりするんだ!」
うわ……
また勝手に触っているよ。
それにしても、すごく楽しそうだね。
「(ちょっと……野田のおじいちゃん……わけの分からない物を触らないでよ。案内している人間の顔が怖過ぎるよ)」
「んん? そうか? あ! 見てみろ! この裸の兄ちゃんの像! くうぅ! 日本人とは違って……」
「うわあぁっ!」
まったく……
像の局部を見つめながら変な事を言わないでよ!
「どうした? 急に大声大会か? お? あっちにある変な置物は……」
野田のおじいちゃんでさえ、こんなに興奮するんだから他の皆が来たらもっと大変な事になるよ。
明日は違う誰かが付いてくるんだよね?
それよりも……
もっと大変なのはベリス王だよ。
野田のおじいちゃんが物を持つたびに『さあ、壊せ』っていう表情をしている。
あぁ……
お城の物を壊したら新しい物を売りつけようとしているのかな?
いや、でも壊すのはベリス王が連れてきた野田のおじいちゃんなんだから品物を渡してもお金はもらえないよね。
ベリス王がタダで品物を取られるような事をするはずがないし……
一体何が目的なの?
「(ちょっと、ベリス王……野田のおじいちゃんが物を壊したらどうするの? 弁償させられちゃうよ?)」
「(え? 大丈夫です。実は骨董品を上手に修復する者が傘下にいるのですよ)」
「(……? まさか……わざと壊させて、人間よりも上手く直して仕事を得ようとしているの?)」
「(マグノリア王から認められたら次から次へと人間からの依頼が転がり込んできますからねぇ)」
「(その為に第三地区の皆を一人ずつ付いてこさせる事にしたの? 一人ずつにしたのはお城ごと壊されない為とか? 皆、元気過ぎるくらい元気だからね)」
「(それは違います。毎回王を相手にするわけではありませんし、その辺にいるような貴族相手に物を壊せばいきなりグサリですよ)」
「(いきなりグサリ……怖いね。何が怖いって、第三地区の皆は創り物の身体だから首を切り落とされても、普通に動ける事が怖いんだよ)」
「(そうですねぇ。一度は見てみたいですが、さすがに人間が見ている時はできませんねぇ)」
「(……おもしろがっているでしょ?)」
絶対におもしろがっているよ。




