お母様の秘密?
「え? ベリス王の契約書に特に変なところは無かったし……」
空間移動一往復で金貨一枚だよね?
「金貨一枚で良かったんか? 世界中を回るんだろ?」
野田のおじいちゃんは、どうしたのかな?
「……え? うん。そうだよ? 一往復で金貨一枚……」
「やっぱりそう思ってたんか。ベリス王は一往復じゃなくてこれからする洗濯の分、全部を言ってたんだろ?」
「え? ええ!? まさか……うわ……確かに一往復とは書いていない……でもこの契約書なら書き方があいまいだから……」
「ぺるみ……よく見てみろ。アリより小さい字で書いてあるだろ」
「え? アリより小さい字? ……!」
インクが垂れたんじゃないの!?
言われてみれば確かに書いてある。
ポタポタ垂れたみたいにしか見えない字が……
ベリス王め!
こんな事まで器用なんて!
「契約書はよく読まねぇとなぁ。ははは! さすが天ちゃんの娘だなぁ」
確かにお父様は群馬にいた頃、詐欺師に騙されて、ぺらっぺらの布団を買わされていたけど……
「うぅ……また、お父様似って言われた」
「ははは! そっくりだからなぁ。そりゃ言われるだろ」
「わたしはお母様似がいいの!」
「んん? デメテルにもそっくりだぞ?」
「え? 本当!?」
初めて言われたよ!
嬉しいっ!
「ぺるみは知らなかったんか? デメテルはなぁ。ハデスちゃんを見ながらニヤニヤしてるんだ……」
「……え? ハデスを見ながら?」
お母様が?
「そうだ。前に見た時は確か『やっぱりわたしの弟は世界一かわいいわ』って言いながらハアハアしてたぞ?」
「そんな……お母様に限ってそんな事は絶対に無いよ!」
「んん? ぺるみは知らねぇんか? デメテルはブラコンなんだぞ?」
「ブラコン……野田のおじいちゃんは、そんな言葉を知っていたんだね」
「んん? こんなの常識だぞ?」
「お母様がブラコンって……あ、でもお父様もポセイドンも弟だよね?」
「天ちゃんは夫みてぇなもんだろ? ポセイドンも昔はかわいかったらしいけどなぁ。天ちゃんがいねぇ間に口説かれてから気持ち悪くなったみてぇだ」
「唯一まともなハデスは、ずっとかわいいままなんだね」
「いやぁ。初めてデメテルのあの顔を見た時には、さすがぺるみの母ちゃんだと思ったなぁ」
「……わたしは両親のダメな部分を全て受け継いだんだね」
「……それに関して、じいちゃんの口からは何も言えねぇなぁ」
『じいちゃんの口からは言えない』?
っていう事は、わたしはお父様とお母様のダメなところを全て受け継いでいるっていう事?
いや、もしかしたら違うかもしれない。
もう一度訊いてみよう。
「……わたしは両親のダメな部分を全て受け継いだの?」
野田のおじいちゃん……
違うって言って。
「……短所は長所だ。言い方を変えてみるか?」
短所は長所?
「言い方を変えるの?」
「うーん。そうだなぁ。詐欺師から騙されて布団を買わされるお人好しの父親と、弟を大切にできる家族思いな母親……?」
「それなら、まだいいかも!」
うん!
全然いいよ!




