給金は高い方がいいよね
「ささ、出発ですよ! まずはマグノリア王からです!」
ベリス王がいつもの作り笑顔で話しかけてきたけど……
「……え!? マグノリア王!? ちょっと待って……さっき、今生の別れをしてきたんだけど!?」
どんな顔をして会いに行けばいいの?
さすがに恥ずかしいよ。
「それは『ぺるみ様』がですよね? 今からマグノリアに行くのは『洗濯師』ですよ?」
「はあ!? ちょっと……」
また屁理屈をこね始めたよ。
「その後はマグノリアの高位貴族を数名と……それから……」
「はあ!? 何それ!? 一日一個とかじゃないの!?」
「ははは! 世界中の人間がベリアルのぬいぐるみを購入したのですよ? それでは洗濯が間に合いませんよ」
「わたしは明日から冥界の仕事をするんだよ?」
朝から晩まで洗濯をさせられる暇はないんだよ。
「ははは! ぺるみ様の冥界でのお仕事は午前中ですよね? いやぁ、予定が組みやすくて助かります」
「はあ!? ちょっと……」
いつの間に調べていたの?
って言うより勝手に予定を組まれても困るんだけど。
「はい! では、マグノリアに空間移動をお願いします!」
「え!? それもわたしがやるの!?」
「はい。わたしは空間移動ができませんからねぇ」
どこまでもこき使うつもりだね。
それなら、こっちにも考えがあるよ。
「じゃあ、空間移動の分の給金をちょうだいっ!」
「……? 空間移動の給金?」
ベリス王が首を傾げて、とぼけ始めた!?
「ちょっと……今ごまかそうとしているよね? わたしがやるって言ったのはぬいぐるみの洗濯だよ? 空間移動でのベリス王の送迎は別の話なんだよ」
「……仕方ありませんね。では一往復で銅貨一枚……」
銅貨一枚って……
「はあ!? そんなんじゃパンも買えないよ!」
「はぁ……仕方ありませんねぇ。では、銀貨一枚……」
「あり得ないでしょ? 空間移動なんだよ? 金貨一枚でも安いくらいだよ!」
「金貨一枚……分かりました。では金貨一枚で。では書類を作成しましょう」
「……? ずいぶん簡単に折れたね」
何か変だよ。
こんなに簡単に金貨をくれるなんて……
「はい。ではサインを」
ベリス王がすごい勢いで契約書を作成し終えたけど……
よく読まないと。
また騙されたら大変だからね。
うーん……
特に変なところはなさそうだけど。
『洗濯は無料で空間移動は金貨一枚』のところをやたら強調して書いてあるような?
ん?
インクがポタポタ垂れているね。
ベリス王にしては珍しいミスだよ。
「本当に金貨一枚くれるの?」
「ははは! もちろんです。ささ、急ぎましょう。約束の時間に遅れてしまいます」
「……うん。じゃあサインを……」
うーん……
ベリス王の笑顔がいつもよりキラキラしているような。
怪しいよ。
でも、文面におかしなところは無いから……
サインしても大丈夫だよね?
「はい。では、これで契約成立ですね」
「……うん」
なんだか不安になってきたよ。
こんなに簡単に金貨をくれるはずないのに。
「ぺるみ……サインしちまったなぁ」
野田のおじいちゃんが呆れながら話しかけてきたけど……
ずっと見ていたのかな?




