二代前の聖女にはきちんと言葉にして伝えたいから
「聖女が『世界の果てに捜し人が待っている』って言ったんだってね。それってオケアノスの子孫に向けた言葉だったの? ひとりぼっちのオケアノスに会いに行って欲しいって……わたしの考え過ぎかな?」
桜の木の下に埋葬されている聖女に話しかけながら空を見ると……
青い空にシュークリームみたいな雲がゆっくり流れていく。
リコリス王国も暑かったけど幸せの島も暑いね。
でも、リコリス王国の方が暑かったかも。
リコリス王国……か。
もう、行く事はないんだね。
お兄様がいるあの国には……
人間の国にはもう行かないんだ。
はぁ……
たった二か月だったのに、人間と過ごすのが当たり前みたいになっていたから……
やっぱり辛いな。
「聖女は、この世界にどうなって欲しかったの? どんな未来になって欲しかったの? 今この瞬間は聖女が望む未来になっているのかな」
きっと、そうなってはいないよね。
人間達は酷い身分制度で苦しんでいるんだから。
でも……
ほんの少しずつだけど前に進み始めているのは確かだよ。
「ふふ。質問ばかりしちゃったね。いつか……いつかね? わたしの望む世界になったら……皆が仲良く暮らせる世界になったら……人間も魔族も天族も仲良く暮らせる時が来たら……その時が来たらね? 誰にも言えなかった、わたしが本当にやりたかった事ができるの」
吉田のおじいちゃんにもおばあちゃんにもゲイザー族の皆にも聞かれないように心の底に隠しておいた『願い』。
バニラちゃんとオケアノスはわたしの心の中にいたから知っているけど、誰にも言わないでいてくれた『願い』。
「今なら口に出して言える……」
聖女に誓うよ。
この気持ちをきちんと言葉にする。
わたしの決意を聖女に聞いて欲しいの。
今の気持ちが絶対に変わらないように。
くじけそうになったら今を思い出して前を向けるように。
「わたし……天族と人間と魔族を繋げる存在になる!」
これはわたしにしかできない事だから。
ベリアルは魔族と人間は大好きだけど、天族の事は嫌いだからね。
天族の『ペルセポネ』であり、人間の『月海』であり、魔族の中で育った『ルゥ』であったわたしにしかできない事……
いつか……
今すぐには無理だけど……
魔族、人間、天族が仲良く暮らせる世界になる為に、わたしができる事が必ずあるはずだよ。
ゆっくりゆっくり流れる時の中で、ゆっくりゆっくり世界が変わっていったら……
全ての生き物が仲良く暮らせるようになるのかな?
……きっとなれるよ。
第三地区と幸せの島では皆仲良くできているんだから。
いつかこれが、世界中に広がっていけば……
ひとつ解決したら新たな問題が見えてくるだろうけど、またその壁を乗り越えて……
それを何度も繰り返せば……
きっと全ての生き物が仲良く暮らせるようになる。
「少し前までは、こんな甘い考えを口に出すのも恥ずかしかったけど……今なら自信を持って言える。全ての生き物が仲良く暮らせる世界……絶対にそんな素敵な未来がやってくる!」
……あれ?
今……
変な感じがした?
……?
気のせいかな?
空気が振動した……みたいな。
 




