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これで最後……寂しいけどそれぞれの居場所で前に進むんだね

 ちょっと……

 なんなの、これ。


 どうしてベリアルとスーたんが、印籠を出しながら旅をしているあの時代劇のオープニング曲を歌っているの!?

 しかも広場に集まっている人間達が泣いている……


 あぁ……

 ベリアルまで泣き出したよ。

 もう、わけが分からない……


 あ、歌い終わったね。

 ベリアルが真剣な表情になったけど……

 ついにあの話をするんだね。

 この為に頑張って歌と踊りの練習をしていたんだ。

 ベリアルの気持ちは、人間達に伝わるかな?


「……オレ、人間が大好きだ。この世界も大好きだ。オレは、少し前までは居場所が無くてずっとひとりぼっちで……でも、この世界に来てから家族の温かさを知ったんだ。人間の優しさを知ったんだ。オレ……いつまでも皆に笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。だから、だから……この世界を愛して欲しいんだ! 傷つけないで欲しいんだ! 大好きなこの世界がいつまでも続くように……だから……皆に仲良くして欲しいんだよ。戦の無い平和な世界……差別が無い穏やかな世界になって欲しいんだよ!」


 広場でサイリウムを動かす人間達の手が止まったね。

 何を思っているんだろう?

 貴族は……

 平民は……

 王族は……

 何を思っているの?


 ずっと虐げられて、傷つけられてきた平民。

 自分よりも高位の貴族から虐げられてきた貴族。

 王族だって小国なら大国から見下される事もあるはず。

 そして、その頂点に立つ四大国の王様達は……?

 

 何も知らないくせに……

 偽善者……

 そんな風に思われないかな?


「ペリドット様……ヒヨコ様はご立派ですなぁ」


 マグノリア王が手に持っているサイリウムを大きく振り始めた?


「確かに本当に素晴らしいです」


 デッドネットル王も振り始めたね。


「ペリドット様。これで最後なのですね。どうかお幸せに」


 アルストロメリア王が泣きながらサイリウムを振っている。


「ペリドット……プルメリアの件が解決したら必ず会いに行くからね」


 お兄様がわたしの髪を優しく撫でてくれる。

 温かい手だ……

 あ……

 広場にいる人間達が歓声をあげながらサイリウムを振り始めた。

 

「うん。うん……待っているよ。幸せの島で……捜し人が待つ幸せの島で」


「ペリドット……ずっと捜していたかわいい妹は、世界の果てで待っていたんだね」


「お兄様……」


「遥か昔の聖女様はお兄様に教えてくれていたんだね。捜している妹は世界の果てにいるんだと……」


「……お兄様」


「待っていてね。ペリドットに必ず会いに行くから」


「……うん」


 今日は泣かないって決めていたのに……

 涙が出てきちゃうよ。


 あ……

 お兄様が小指を立てた右手を胸の前に伸ばしている。

 約束の指切り……

 昨日した、わたしが幸せに暮らすっていう約束…… 


 お兄様の小指にわたしの小指を絡めると涙がこぼれる。

 

「約束だよ。必ず幸せに暮らすんだよ。愛しているよペリドット……」


 ハデスの闇に近い力が消えて空が明るくなる。

 あぁ……

 わたし達が空間移動で帰る合図。

 これで……終わり……

 胸が苦しくて涙が止まらない。

 でも、わたし自身が決めた事なんだから。

 卒業前にアカデミーを辞めるって決めたのはわたしなんだから。


「お兄様……待っているよ。捜し人が待つ世界の果てで……わたし……幸せの島で待っているよ」 


 お兄様が優しく微笑みながら頷いている……

 わたしも涙を流しながら微笑むとベリアルの声が聞こえてくる。


「皆! 目を閉じろ! 今までありがとう! あ、少ししたら目を開けるんだぞ。さっきみたいにずっと目を閉じてなくていいからな」


 ベリアルとスーたんが空間移動したみたいだね。

 わたしも行かないと……

 神力で創ったステージの照明とサイリウムを消して、マグノリア王からゴンザレスを抱き上げる。

 皆、しっかり目を閉じているね。


「見守るよ……ずっとずっと……だから……幸せに暮らしてね。愛しているよ……」


 これが、わたしからの……

 人間達への最後の言葉……

 あぁ……

 風の上位精霊のジンがわたしの声を広場に響かせてくれたみたいだ。


 こうして、わたしは幸せの島に空間移動した。

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