貴族と平民以外の身分はなーんだ?
「今……なんて言った?」
『平民なんか人じゃない』って言ったよね?
貴族は平民のお手本になる立場だって知らないの?
人じゃないって罵るなんて、あなたの方が人じゃないよ!
「え? お前……平民か? それにしちゃ綺麗だな。わたしの遊び相手くらいにならしてやってもいいぞ?」
うわあぁ……
ハデスが少し離れた場所から見ているんだよね?
命知らずとはこの事だね。
「あいつ、死んだな」
ベリアルの呟きが聞こえてきたよ。
その通りだね。
じわじわと、なぶり殺……
……にされる前にわたしから世間の厳しさを教えてあげないとね。
教えた後に、さらにハデスにやられる可能性が高いけど……
「さっき、自分がなんて言ったか覚えている? お腹が痛いんでしょ? トイレに行かなくて平気なの? (早く逃げないと殺られるよ?)」
「は? 平民のくせに貴族のわたしに敬語を使わないとは! 小声でボソボソ話すな! これだから知能の低い愚かな平民は困る。本当に生きる価値も無いな。少しくらい綺麗だからと調子に乗ると痛い目を見るぞ?」
「お漏らしする前に行った方がいいよ? (そしてこの場から逃げた方がいいよ)でもおかしいね。食中毒は食べてすぐには症状はでないんだよ?」
「な……それはお前が愚かだから知らないだけだ」
「ふぅん。わたしをバカだって言うんだね? 今までそんな事は言われなかったけど」
毎日、変態とか気持ち悪いとかは言われているけどね。
「周りが愚か過ぎて誰も気づかなかったんだろう? 皆、愚かだからな!」
「……わたしの周りの生き物が皆、愚かだっていう事?」
「その通りだろ? これだから知能の低い平民の相手は嫌なんだ。だからわたしが教えてやっているんだ。お前らは生きる価値も無いとな! ははは!」
「だから、市場の人間に嫌がらせをしていたの? さっきまでは助けてあげようと思っていたけど、何を言っても無駄みたいだね」
「は? お前みたいに地位の低い奴が貴族のわたしになんて口を……」
「さっきから貴族だとか地位が低いとか……それしか言う事が無いの? 一番大切なのはもっと内面的なものなんじゃないの? 一緒にいて楽しいとかこの人といると幸せだとかそういう事じゃないの? 身分でしか物事を見られないの?」
「世の中は地位の高い奴を中心に回ってるんだ。お前ら平民はその中には入っていないんだ。分かるか? 生きる価値も無いんだ。その辺の虫と同じ……それ以下だ!」
「……それ以下? 以下っていうのは『虫未満』っていう事? それとも『虫も含む』っていう事?」
「は? 未満? 含む?」
「うーん。アカデミーって優秀な人間しか通えない所じゃなかったんだね?」
「はあ!? お前……オレをバカにしてるのか!?」
「だから、未満と以下の違いを言ってみなよ?」
「くっ……」
「ちなみに……わたしは貴族じゃないけど平民でもないよ?」
「は? 他に何の身分があるんだよ!?」
「さて、問題だよ? 貴族と平民以外の身分は、なーんだ?」
「そんなの王族……え? まさか……お前、いくら愚かな平民だからって王族を語るなんて赦されないぞ!?」
「ふぅん。ちなみにあなたは貴族なんだよね? 爵位は?」
「伯爵だ! 広い領地で絹製品を……ってお前、偉そう……まさか……本当に王族?」
「リコリス王国の伯爵……だね? 絹か……へぇ。絹ねぇ?」
「……なんだよ! 絹がなんだよ!?」
「うーん。絹を作るには蚕が必要だよね? 今日辺りから蚕が繭を作らなくなるかもね?」
「は? 何言ってるんだ?」
「うーん。アカデミーってお金がかかるんでしょ? 通えなくなっちゃうかもね? 絹が作れなくなったら没落して、平民になって……そうだ! この露店商市場で働けばいいね! まぁここの皆がそれを許してくれるとは思えないけど」
「お前……一体何者だ!?」
「さて、問題だよ? わたしは貴族でも平民でもない。じゃあ、なーんだ?」
「まさか……本当に王族!?」
あぁ……
少し離れた建物の陰からハデスを必死に押さえつけて止めているヴォジャノーイ族のおじちゃん達が見え隠れしているね。
確実にハデスは、この貴族をじわじわとなぶり殺……にするつもりだね。
わたしをバカにする事をハデスは絶対赦さないからね。
でも、公衆の面前で殺人はまずいよね?
吉田のおじいちゃん!
ハデスを止めてもらいたいんだけど。
わたしの心の声が聞こえているよね?
あれ?
吉田のおじいちゃんがいなくなっている?
さっきまでそこにいたのに。
ん?
よく見たら屋台の陰で着替えているね?
まさか……
裸踊りをするつもりじゃないよね!?
あれ?
違うね。
むしろ布が多い。
ん?
あの服って……
忍者!?
うわあぁ……
何をするつもりなの?
嫌な予感しかしないよ。