やっぱり……絶対来ると思っていたよ
「うぅ……かっこ良く、たらいに入りたかったのに……全然入れない。いつもは、ばあちゃんが持ち上げて入れてくれるから……」
ベリアルが悲しそうにしているね。
そんな姿もかわいいけど。
「ふふ。じゃあ、わたしが持ち上げるよ」
ぐふふ。
今日はベリアルをずっと抱っこできて嬉しいな。
「お? 適温だな。熱くもないし冷たくもない。ぺるみが用意したのか?」
「上位精霊が来ているの。ふふ。ヒヨコちゃんのステージを楽しみにしているみたいだよ。本当はちょっと熱めのお湯が好きなのは分かっているんだけど、これから動き回るからね。適温にしてくれたみたいだよ」
「そうなのか……うぅ……緊張して身体が震えてきた……」
「無理そうなら……やめる?」
こんな大人数の前で歌って踊るなんて……
やっぱり、この場に立ったら緊張しちゃうよね。
「え? ……いや、オレ……やるよ。ここにいる人間達と会うのは今日が最後だから……後悔したくないんだ。逃げるのは簡単だけど、今逃げたら絶対後悔するから」
「ヒヨコちゃん……」
心配なくらい身体が震えているけど……
「メリアルお兄たん……」
この声は……
ステージの端からかわいい声が聞こえてきたね。
「スーたん!? どうしたんだ?」
やっぱりスーたんだ。
ベリアルがかなり驚いている。
誰かに頼んで空間移動で連れてきてもらったのかな?
でも、朝食の時に姿が見えなかったような……
まさか、一人で前乗りしていたんじゃないよね?
スーたんは『かわいい』って言われる為ならなんでもするんだから。
あ……
人化している『どこの傘下にも入っていなかった種族』が少し離れた屋根の上にいるね。
心配そうにスーたんを見つめているよ。
陰ながら守っているんだね。
じゃあスーたんは、いつも助けてくれる魚に乗って来たのかな?
かなり時間がかかったはずだよ。
「スーたんね、お兄たんが心配で来ちゃったの」
スーたん……
自分がかわいく見えるように振る舞っているね。
あぁ……
スーたんがベリアルのステージに乱入して一緒に歌って踊ろうとしていた事を第三地区にいるベリアル以外は皆、知っていたんだよ。
毎晩遅くまで隠れて練習していたよね。
『どこの傘下にも入っていなかった種族』の皆がこっそり差し入れをしていたっけ。
遥か昔から、そうやって守っていたんだね。
初めから『一緒に歌って踊りたい』って言えばいいのに。
そうすればベリアルだって喜ぶし、夜中に一人で練習しなくて済むし。
そう考えるとスーたんって頑張りやさんだよね。
「スーたん……オレの為に来てくれたのか……」
ベリアルが感動してウルウルしている。
完全に騙されているね。
でも、ベリアルとスーたんが歌って踊ったら超絶かわいいかも。




