宰相とベリアル(3)
今回はベリアルが主役です。
「リコリスの人々が幸せに暮らす姿を陛下とわたしの代わりに見届けて欲しいのです。お願いできますか?」
メガネの兄ちゃんが真剣な顔で頼んできた。
オレも真剣に答えないと。
リコリス王国の身分制度がなくなる頃には、もうメガネの兄ちゃんは生きていないんだ。
こんなに頑張って宰相の仕事をしてるのに、世界が変わる瞬間を見られないなんて悔しいだろうな。
「……もちろんだ」
オレはこの世界を見守る者になったんだ。
人間が幸せに暮らす世界をずっとずっと見守るからな。
「人々が貧困から抜け出し、世界共通の金貨が当たり前のように使われるようになれば……世界中が笑顔で溢れるはずです。そうなればまた違う問題が現れるかもしれませんが……そこから先はまたその時に生きる人々が知恵を出し合い、前に進むはずです」
「……そうだな」
「ピヨたん……?」
「ん? なんだ?」
「ありがとうございました」
「……? 何がだ?」
「ピヨたんとペリドット様、ゴンザレス様が現れてから、この世界は大きく前進しました」
「……そうか」
全部ぺるみのおかげだけどな。
「どうか、これからは心穏やかにお過ごしください。誰かの犠牲になど絶対にならないでください」
ぺるみが……ルゥが、聖女としてこの世界の犠牲になった事を言ってるのかな?
「ああ。オレもぺるみも誰かの犠牲になんてなったりしない。人間を信じてるぞ。自分達だけで高い壁を乗り越えられるって。人間ならそれができるって……だから……オレ達も穏やかに過ごすから……皆も元気でな」
「ピヨたん……!」
アルストロメリア王が、メガネの兄ちゃんにオレを抱っこさせたな。
兄ちゃんに抱っこされるのも、これで最後か……
頬擦りが激しくて、羽根から火が出そうなくらい熱くなっている。
本当は嫌だけど今日が最後だからな。
我慢だ!
我慢!!
ん?
ぺるみとマクラメがステージの真ん中に、たらいを置いた……?
あそこで満腹じゃなくなるまで泳いだらステージが始まるんだな。
先生が作ってくれた衣装は、きつくないかな?
食べ過ぎて入らないなんて事はないよな?
上手く歌えなかったらどうしよう。
もし、途中で転んだら……
歌詞を忘れたら……
ダメだ、ダメだ!
こんな風に考えてたら本当に失敗しちゃうよ!
毎日歌と踊りを練習してきたんだ。
絶対に上手くやれる!
オレならできる!
いつも頑張ってる人間達に、完璧なステージを見せるんだ!
これが最後か……
人間の事が大好きになったから寂しいよ。
でも……
もう会えないからこそ、オレの姿を覚えていてもらえるように頑張るんだ!




