忘れてはいけない事を忘れていたよ
「それでは……『四大国のアカデミー魔術科対抗魔術戦』の最優秀アカデミーは……」
デッドネットル王の声が広場に響く。
会場は静まり返っている。
魔術科のジャック達の緊張が伝わって、わたしまで緊張してきたよ。
でも、誰がどう見てもリコリス王国アカデミーの魔術が一番だったけどね。
魔術を披露し終えてからずっと、魔塔や四大国の偉い人間がジャック達を囲んでいたし。
これで夢だった魔塔に入れそうだね。
「最優秀アカデミーは……リコリス王国アカデミーだ!」
デッドネットル王の発表と共に大歓声があがる。
リコリス王国アカデミーの出場者は五人中四人が平民だから、広場に集まっている平民達が喜んでいる。
市場の皆も大喜びだね。
市場のおじいさん達が『あの子達はオレが育てたんだ』って騒いでいるよ。
ふふ。
どこの世界にも同じような事を言う人間がいるんだね。
学長は腰を抜かしているみたいだ。
前の席のジャックとリリーちゃんが腰をさすっているのが見える。
……学長とジャック?
何か忘れているような……
あ!
そうだよ!
二人がしている『ヒヨコ様交換ノート』!
あれには、わたしの変態な姿が事細かに書いてあるんだ。
今夜中に闇に紛れて回収しないとね。
(……ぺるみ様……それって犯罪では?)
ゴンザレスがわたしの心に話しかけてきたけど……
(ぺるみ様それは犯罪ですよ?)
……聞こえない振りは通じないか。
だって恥ずかしいんだもん!
あのノートが後世に伝わるなんて嫌なんだもん!
(ぺるみ様の愛らしさが伝わってくる素敵なノートですよ?)
伝わるのは愛らしさじゃなくて変態なんだよ!
(本当に素敵なノートなのに……あ、キャラメルだ! モグモグ)
ゴンザレスは、またマグノリア王からキャラメルをもらったんだね。
はぁ……
確かに泥棒はダメだけど……
やっぱり後世には残したくないんだよ!
「はぁーい! では、今からヒヨコ様のステージが始まりますっ! ステージの準備が終わるまでしばらくお待ちくださいっ!」
あれは……
マクスの妹のマクラメ?
(モグモグ。マクラメは推し活とやらの第一人者らしくて、今回のベリアルのステージにかなり協力していたみたいですよ)
そうだったんだね。
吉田のおじいちゃんが『ステージの事はまかせとけ』って張り切っていたから、丸投げしていたんだ。
そういえば……
マクラメに推し活を勧めたのは吉田のおじいちゃんなんだよね?
(おや、ご存知でしたか)
やっぱり……
うちわとか推し活とか、この世界には無さそうだからそうだろうとは思っていたけど。
(この世界の人間に推し活するパワーを与えたかったようですよ?)
推し活するパワー?
確かに大好きな存在を応援する時ってあり得ないくらいのパワーが出るからね。




