未来は少しずつ変わり始めているんだね~前編~
「ペリドット……これが『サクラの木』なんだね」
お兄様が尋ねてきたけど……
そうか。
二代前の聖女が桜の木の下に埋葬された事は知っていても、桜の木自体はこの世界に無いから初めて見たのか。
「うん……」
「ありがとう。二代前の聖女を洞窟から助け出してくれて……本当にありがとう」
「お兄様?」
「リコリス王だというのに、聖女が洞窟に隠されていた事を知らなくて……でも、真実を聞かされた時は……上手く言えないけど……複雑だったんだ」
「複雑?」
「うん。ルゥの身体はペリドットや魔族、第三地区の皆が守り続けているけど二代前の聖女はひとりぼっちで寂しかったはずだよ。でも……もしかしたら蘇るかもって思って埋葬したくなかった気持ちも分かるんだ」
「……うん」
「だけど……これで良かったんだよ」
「良かった……?」
「聖女は蘇らないんだ。身体は日に日に腐敗して……寒くて日も当たらない洞窟にいるより、日が当たる暖かい幸せの島にいた方が良いに決まっているよ」
……!
二代前の聖女が遺した言葉……
『世界の果てには捜し人が待っている』
数千年の時を経て聖女自身が世界の果てに来たんだね。
そして、その聖女に『オケアノスの二つに分かれた魂の片方の』バニラちゃんが毎日花冠を作っている……か。
聖女とオケアノスは数千年の時を経て、世界の果てで穏やかな時間を過ごしているんだね。
「……そうだね。二代前の聖女は幸せの島に来られて良かったんだよ」
「これが『幸せの島』……」
「暑いですなぁ。常夏の島でしたか?」
「毛量が……残念……ん? かなり暑いですね」
他の王様達が初めて来た幸せの島を見回しているね。
「ようこそ。今、魔族の皆は隣の島に行っているはずだよ。でも、魔族は皆すごく優しいの」
「はい。分かっています。我ら四大国の王は時々魔王と会ったり手紙のやり取りをしているのですよ」
マグノリア王が教えてくれたけど……
「え? そうなの?」
お父さんからは聞いた事がないけど。
あ……
でも人間と魔族の問題を、人間の王と話し合う事もあるみたいな事を言っていたかも……
「少し前までは無かったのですが、今の魔王になってからは数回ほど……」
「そうだったんだね」
「『魔族は人間を食べなくなるはずだ。だから、これからは長い年月をかけて良い関係を築いていきたい』と言われた時には驚きました」
「……!」
お父さんは、自分が魔王のうちに人間と魔族の関係を良くしようと頑張っていたんだね。
「ペリドット様……」
「うん?」
「ペリドット様の望む未来は、遠く険しい道の先にあります」
「……人間と魔族が仲良く暮らす世界。それから人間の身分制度の廃止……?」
「はい。どちらも簡単には叶わぬ『夢物語』です。ですが、変えようとする『誰か』がいれば変わるのです。夢物語の夢が叶えばそれは現実となるのですから」
マグノリア王が真剣に、でも優しい瞳で話している。




