身分が高ければ何をしてもいいなんて思い上がりだよ?
「じいちゃん! 入るよ?」
男の子が家の扉を開けるとベットに横たわるおじいさんが見える。
「あぁ……来てくれたの?」
おばあさんもいるんだね。
椅子に座って綺麗なレースを編んでいる。
「ばあちゃん、この人がじいちゃんの腰を治してくれるって!」
「え? 綺麗な人だねぇ。……貴族じゃないのかい?」
「違うみたいだよ? それに全然偉そうじゃないんだ!」
「でも……初めて会うのにどうして助けてくれるんだい?」
「え? そういえばそうだ。姉ちゃんどうしてなの?」
いずれわたしが王妹のルゥだった事は人間にも話す事になる。
種族王のイフリート王の考えだと、先に貴族じゃない平民に話した方が良いらしいね。
っていう事は今か……
絵本の時もそうだったけど、平民はいつも力になってくれるんだ。
貴族はいつも権力争いの中にいるからね。
色々なしがらみがあって簡単には動けない。
民はいつも心のままに動ける……そう思っていたけど、貴族にこんなに虐げられていたなんて。
身分制度は簡単には変えられないし、たとえ廃止したとしても今まで根づいてきた人間の身分の壁は簡単には消えない。
実際、身分制度は廃止できないしお兄様が王になったからって今までの貴族優位の考えが変わるわけじゃない。
「姉ちゃん? どうしたの?」
「え? あぁ……それは……今からわたしがする事を見れば分かるよ?」
偽の聖女もいるらしいから『わたしは聖女だよ』なんて言ったら警戒されちゃうからね。
おじいさんは……
あぁ……
かわいそうに。
苦しそうにしているね。
それにしても、痛そうだね。
内臓もやられているんじゃないかな?
「おじいさんはいつ怪我をしたの?」
かなり悪そうだね。
「昨日の朝だよ。あの貴族、アカデミーに行く前に市場に来たみたいなんだ。あいつ……食べるだけ食べた後にお腹が痛いって言い出して……いきなり貴族をバカにするなって暴れだしたんだ」
この男の子……
よく見たら頬が腫れているね。
「その……顔はどうしたの? 腫れているよ?」
「じいちゃんを助けようとして……でも、オレは負けてないよ!?」
なんて酷い事を……
お年寄りと子供に暴力を?
赦せないよ。
「とりあえず、おじいさんから治すからね?」
次に頬を治すから。
「あの……治すって……医者なんですか? わたし共にはお金が無くて……」
おばあさんも辛いよね。
大切な家族が苦しんでいるのに見ている事しかできないんだから。
「お金はいらないよ? 薬も使わないし、気にしなくていいからね?」
横たわるおじいさんのお腹に手を乗せると想像する。
おじいさんが元気に市場で働く姿を……
おばあさんと楽しそうに笑う姿を……
わたしの手のひらから温かい光が溢れ出す。
「うう……ん……あれ? オレは……」
おじいさんが目を覚ます。
良かった。
あと一日遅かったら危なかったね。
おばあさんがおじいさんに抱きついて泣きながら喜んでいるよ。
やっぱりペルセポネの身体に戻ったから治癒の力を使われても眠らなくなったみたいだね。
おじいさんも普通に会話をしているし。
「姉ちゃん? 姉ちゃんは誰なの?」
男の子が呆然としているね。
「……わたしは聖女だよ? この国の王様の妹なの」
「でも、聖女様は死んだって聞いたよ?」
「神様が……よく頑張ったって言って、新しい身体をくれたの」
わたしは嘘つきだ……
でも、申し訳ないけど本当の事は言えないからね。
「聖女様なの? 本当に?」
「うん。でも、まだお兄様には会っていないの。少し離れた場所から見守りたいと思ってね? もう少ししたら会いに行くつもりなの」
「そうなんだね。聖女様の偽者がいっぱいいるからすぐ信じなくてごめんね?」
「ふふ。いいんだよ?」
男の子の頬に触り腫れを治すと、柔らかい感触に心が痛む。
こんなに小さい子を殴るなんて絶対に赦せないよ。
「訊いてもいいかな? 二人をこんな目に遭わせて逃げた貴族はどこの誰なの?」
しっかり罪は償ってもらうからね。