やっぱりベリアルは世界一かわいいヒヨコちゃんだよね
馬車が止まると露店商市場の入り口に着いていた。
馬車から降りると市井の人間達の視線を痛いほど感じる。
わたしはローブを着ているけど、公爵は見るからに貴族の服を着ているからね。
うーん。
貴族は露店商市場には出入りしないって言っていたのにどうしてローブを着てこなかったのかな?
……もしかして、お兄様考案の露店商市場に肯定的な立場である事を他の貴族に分からせる為に?
公爵の顔を知っている人間は市場内にもいるだろうし、今乗ってきた馬車にも公爵家の紋章がある。
この公爵が、ただわたしに付いて来たいからなんて理由で、貴族が寄り付かない市場に来るとは思えないからね。
一歩間違えば『平民の食べ物を口にした愚かな公爵』なんて言われかねないよ。
「(あれは、お貴族様だよな?)」
「(ほら、どっかの国の王族だったっていう……)」
「(じゃあ、隣にいる子は死んだ王子の元婚約者の……)」
人間達が、ヒソヒソ話している声が聞こえてくるね。
わたしをアンジェリカちゃんだと思っているんだ。
困ったね。
嫁入り前のアンジェリカちゃんが平民の市場に出入りしていたなんて思われたら良くないよね。
わたしは何を言われても気にしないけど……
よし。
ローブを外そう。
「ペリドット様? なぜ?」
ローブを外すと公爵が尋ねてくる。
「アンジェリカちゃんに迷惑がかかりそうだからだよ?」
「……アンジェリカに?」
「わたしは自分の意思で来たから何を言われてもいいけど、来てもいないアンジェリカちゃんが悪く言われるのは嫌なの」
「……ほぉ」
ほぉ?
何が、ほぉ?
公爵とはまだまだ腹の探り合いが続きそうだね。
「(さすが公爵令嬢だな。綺麗だ)」
「(違うだろ? この前見た人と違うぞ?)」
「(じゃあ、親戚の王族とか? だから、あんなに綺麗なんだろ?)」
うーん。
ちょっと違うけど……
まぁアンジェリカちゃんじゃないって分かってもらえればいいかな?
「おい! ぺるみ、早く歩けよ。あっちからいい匂いがするぞ?」
ベリアルは我慢の限界みたいだね。
つぶらな瞳がキラキラ輝いているよ。
かわいいっ!
でも、人間達が怖がったらどうしよう?
「(おい! 今あのヒヨコがしゃべったぞ?)」
「(なんだ? 魔族か!?)」
「(オレ達を食いに来たのか?)」
え?
このかわいいヒヨコちゃんが人間を食べるはずがないよ?
こんなに、かわいいんだから。
「もう! 遅いなぁ! オレは先に行ってるからな?」
ベリアルが細長いパンみたいな翼をパタパタさせて飛び始める。
「(うわあぁ! 飛んだぞ!? って……あれ?)」
「(食われる! んん?)」
「(おい……なんてかわいいんだ! 誰だ? 食われるなんて言った奴は?)」
ふふふ。
やっぱり皆、ベリアルのかわいさにやられているね。
仕方ないよね?
わたしの息子は超絶かわいいんだから!
って、早く追いかけないと誰かに捕まえられちゃうかも!
前にも、甘いお菓子の匂いにおびき寄せられてココちゃんのお父さんに唐揚げにされそうになっていたからね。