ヘスティアとペルセポネ(2)
「ヘスティア……大丈夫?」
顔色が悪い……
心配だよ。
「ふふ。大丈夫よ。ペルセポネも気づいているんでしょう? わたしは常に作られた笑顔で感情を表に出さなかったわ。と言うよりはわたしには感情の起伏が無いの。常に微笑みながら他人と深く関わろうとしない……そんな感じだったから」
「……ヘスティア」
確かにそんな感じはしていたけど……
「そう。ベリス王と同じ。作り物の笑顔……そう思っていたの。でも、ベリス王はわたしとは違ったわ。彼は激しい感情を持っていた。彼の心は常に傘下に入る種族や家族を守る為に熱く動いていたの」
「……」
なんて言ったらいいんだろう。
いつも笑顔のヘスティアの辛そうな顔を見ていると上手く話せないよ。
あぁ……そうか。
笑顔を作れないほど苦しいんだね。
「ベリス王の作り笑顔は心を見透かされない為のものよね。でも、それは家族や傘下に入る種族を守る為に作られた笑顔……それに比べてわたしは……」
ヘスティアが悲しそうにわたしを見つめながら話している。
「ヘスティア……」
なんて言ったらいいのか分からないよ。
「わたしは……長女だから……幼い妹や弟を守らなければと常に必死だったの。あの頃の天界はそれは酷くてね……神の子であるわたしは生きた心地のしない日々を過ごしていたの。権力争いや、お父様を神の座から引きずり下ろそうとする奴らに常に見張られて……でも、それを妹弟達には知られないようにしていたの。特にハデスにはね……」
「闇に近い力を持っていたから……?」
「ええ。大天使の中にはハデスを処刑した方がいいなんて言う愚か者もいてね。そんな事は絶対にハデスには知られたくなくて……」
「ハデスは……闇に近い力の事で傷ついてきたみたいだね」
「そうね。わたしやお母様が悪い噂から守っていたつもりだったけど、ハデスは勘のいい子だから……」
「……うん」
「わたしは……いつの間にか作られた笑顔で過ごすようになったわ。不安な気持ちを誰にも悟られないように。幼い妹弟を守る為に……でも、わたしの笑顔は結局自分自身の弱い気持ちを隠す為のものだったの。そして、気づくとわたしから感情が消えていたわ……」
「ヘスティア……」
ヘスティアは弱くなんてない。
幼い頃から妹弟を守るなんて簡単にはできない事だよ。
感情を消さなければいけないほど苦しい思いをしてきたんだね。
「天界は恐ろしい場所よ。口から出る言葉と実際の感情がまるで違うの。皆、口では優しく甘い言葉を囁きながら腹の中では、どす黒い感情を隠している……そんな中で育ってきたから、わたしは誰の事も信じられなくなっていたの」
「誰の事も……?」
「あぁ……もちろん家族は別よ。心から愛しいと思っているわ」
「……そう」
安心したよ。
「訊かないのね」
「……え?」
「わたしにも心を聞く力があるのかって……訊かないのね」
「……訊いても何も変わらないから。でも、もしかしたらとは思っていたよ」
「……ふふ。本当にペルセポネには敵わないわね。ペルセポネはこの力を使えなくしてもらったのよね」
「うん。おばあちゃんにお願いしたの。わたしには他人の心を聞く力は堪えられないから」
だいぶ心が強くなってきたけど、まだ他人の心の声を聞いても大丈夫なほどにはなれていないんだよね。




