普段食べない物を食べるって勇気が必要だよね
「なんという事だ」
しまった。
ヒヨコちゃんのベリアルのあまりのかわいさに公爵の存在を忘れていたよ。
目の前で変態な姿を見せちゃった。
「こ……公爵これは、その……なんて言うか……」
言い訳が思い浮かばないよ。
「神様が大切なヒヨコ様をお与えになられただけの事はありますな。ご立派です」
ん?
ご立派?
わたしが?
変態じゃなくて?
しかも尊敬の眼差しで見つめられている!?
恥ずかしくなっちゃうよ。
ただの変態なのに。
でも、そんな事は言えないよね?
「は……ははは……ありがとう」
作り笑顔がひきつっちゃうよ。
しかも、膝で抱っこされているベリアルが軽蔑のつぶらな瞳で見つめている……
『ぺるみはただの変態だ』って、ばらされる前に話を変えよう。
「こ……公爵は、あの……市井には行った事があるの?」
「視察で一度だけですが」
「やっぱり、貴族には合わないのかな? 行きにくかった?」
「……市井の人々の市場という印象でした」
「そうなんだね。貴族が買うような物は無かったの?」
「そうですね。市井で暮らす人々の物がほとんどです。やはり、貴族は出入りしないでしょう。それに、あの場に貴族が出入りすれば揉め事が起こるのは目に見えています」
「揉め事? それも、貴族優位だからっていう事?」
「そうですね。貴族は平民が口にするような物は好みませんし」
「そうなんだね」
こんな物を食べさせるのかって問題になるのかも。
「ペリドット様は今から『食べ歩き』というものをなさるとか……」
「うん。お行儀が悪いって思われるかもしれないけど、すっごく楽しいんだよ? わたしは、魔族と暮らしている場所からほとんど外に出なかったから、時々お出かけすると嬉しくて。その土地に暮らしている人間の食べ物って他では食べられない物もあるでしょ? だからワクワクするんだよ?」
「……毒が混入していたらと考えたりはなさらないのですか? 腹痛が起きたらと……不安にもなります」
「え? あははは! もし腹痛が起きたらわたしが治すよ? この身体でも治癒の力は使えるからね。ふふ」
むしろ、天族の身体に戻ったからルゥの時よりも上手く治癒の力を使えるようになったんだよ?
なんて事は言えないよね。
「やはり不安なので……わたしは見ているだけに……」
公爵はアルストロメリア王族だったからね。
平民の食べる物に不安があるのは仕方ないよね。
でも、我慢できるかな?
色々なおいしい屋台が出ているんだよね?
群馬での村のお祭りの屋台の香ばしい良い匂い……
思い出すなぁ。
たこ焼きに唐揚げ、チョコバナナにわたあめもあったなぁ。
あの誘惑に勝てるはずがないよ。
前の時は仕事だったみたいだけど今回は完全なプライベートだからね。
リコリス王国の屋台に何があるかは分からないけど、公爵がおいしそうな匂いに負けて一緒に食べてくれたら嬉しいな。