お別れの時(6)
「ペリドット……来てくれたんだね」
リコリス王国のお兄様の執務室に入ると嬉しそうに出迎えてくれる。
宰相はいないみたいだ。
「お兄様……」
上手く話せないよ……
「……お別れを言いに来てくれたんだね」
「……うん」
「とりあえず……座って」
「……うん」
ソファーに並んで座るとお兄様が優しく微笑んでくれる。
「ペリドット……ありがとう。お兄様を助ける為にアカデミーに通ってくれたんだよね?」
「……うん。婚約者候補が誘拐されているって聞いたから……」
「ありがとう。ペリドットのおかげで進むべき道が見つかったよ」
「……え?」
「お兄様は民を心から愛する王になるよ」
「……! うん。お兄様なら絶対になれるよ」
「ペリドット……これからは……自分の幸せの為に生きて欲しいんだ。誰かの犠牲になんてならないで欲しい……」
わたしが聖女として亡くなった事を言っているのかな?
「うん……」
「抱きしめてもいい?」
「うん。わたしも……ずっと抱きしめて欲しかったの」
お兄様に抱きしめられると……
あぁ……
お兄様の匂いだ。
「立派な王になるから。ペリドットが心配しなくて済むような立派な王になるから。だから……安心して幸せになって」
「お兄様……」
「絶対に、このリコリス王国を幸せに導くから……」
「うん……」
涙が溢れてきちゃった。
泣かないって決めていたのに……
全然ダメだよ。
朝から泣いてばかりだ。
「愛しているよ。お兄様とペリドットは双子で……お腹の中にいた時はずっと一緒にいたのに、それからあとは離れ離れになって……でも、こうやってまた出会えて抱きしめる事ができた」
「うん……」
「離れていてもお兄様はずっとペリドットを愛しているよ」
「お兄様……」
「かわいい妹……かわいいペリドット……初めて、妹がいると知った時……すごく嬉しかったんだ」
「うん……」
「その気持ちは今も、これからも絶対に変わらない」
「お兄様ぁ……うぅ……」
涙が止まらないよ……
「幸せに暮らすんだよ。約束しよう……」
お兄様が右手の小指を立てて微笑んでいる。
ゆっくり小指を絡めると、お兄様の小指の温かさに心が落ち着いてくる。
「……うん。絶対に幸せに暮らすよ。お兄様もココちゃんと幸せにね」
「うん。約束するよ。お兄様も幸せになるから……」
「……うん。ココちゃんの事もお兄様の事も大好きだよ。だから二人には幸せに暮らして欲しいの」
「ありがとう。あ、そうだ。ペリドットに贈り物があるんだ」
「え?」
なんだろう?




