お別れの時(5)
「ぷっ! あはは! もう! おばあさんは素直じゃないんだから。『かわいい孫のペリドットに会いたいからまた来てね』って言えばいいのに」
「はぁ!? 全く……困った孫娘だ。この年になると簡単には素直になんてなれないのさ。……気をつけて暮らすんだ。『誰にも傷つけられるな。誰にも拐われるな。誰にも殺されるな』わたしに言える事はそれだけだ」
傷つけられるな、拐われるな、殺されるな……か。
おばあさんは若い頃、アルストロメリア王国に養女に迎えられたけど神力を奪われて海に投げ捨てられたんだ。
そのうえ、仕方なく別れた娘さんを拐われて殺されて……
わたしに生きて欲しいから言ってくれた言葉なんだよね。
「うん。分かった……」
「無様でもいいから生きるんだ。生きていれば良い事もある……わたしも、こうやってペリドットに会えた……あの子の娘……あの時助けられなかったヘリオスの妹……」
ルゥとお兄様が船上で生まれてすぐにルゥが拐われて……
誘拐犯は小舟から海に投げ出されて、ルゥは幸せの島の波打ち際に流れ着いたんだ。
おばあさんは、死んでいるであろうルゥをずっと捜してくれていたんだよね。
ルゥを捜してくれていたのはシャムロックのおばあ様だけじゃなかったんだ。
「うん……生きるよ。皆が繋いでくれた命を大切にするよ」
「長い『時』を生き続けるんだね……」
おばあさんは若い頃、わたしのお母様に何度も会っていたから、お母様にそっくりなわたしを天族だって分かっているんだ……
「……うん」
「皆……いつかは死ぬんだ。わたしは年寄りだからね……その時は近いだろう。でも……悔しい事も山のようにあったが……今は幸せだ。だから……わたしが死んでも傷つく事はない」
「おばあさん……」
「これから、大勢の知り合いの死を見続けるんだね。かわいそうなペリドット。でもその苦しみは、だんだん変わるものなんだ。数日後はまだ苦しくて、数年後はそいつとの思い出に笑い……数十年後はそいつの元に逝く……それが人だ」
「……おばあさん」
おばあさんが悲しそうにわたしを見つめている。
わたしは天族だから人間とは生きる長さが違うんだ。
頭では分かっていたけど、大好きなおばあさんの口から聞くと胸が苦しいよ。
「でもペリドットは……簡単には逝けないんだろう? だから……わたしが死んだ苦しみをいつまでも持ち続けてはダメだ」
「……おばあさん」
そんなの無理だよ……
おばあさんの事が大好きなんだから。
その時を想像しただけで辛くなるよ……
「ペリドットが誰かの死に苦しむ事はない……皆いつかは死ぬんだから……ただ、その時が来ただけなんだから」
「……」
胸が苦しくて何も言えないよ……
「ペリドット……また遊びにおいで……今度は波打ち際で一人で泣いていないで笑顔で来るんだ。分かったね?」
「……うん」
「さあ、もう行きな。大切な家族の元に帰るんだ」
「……え?」
「ペリドットと同じ『時』を生きる家族の元にね……」
「おばあさん……」
同じ時を生きる家族……?
第三地区の皆、魔族、天族の家族……
それから……ハデス……
「ペリドットは一人じゃない。大勢の家族の中で幸せに生き続けるんだ。分かったね?」
「……うん!」
おばあさんに抱きつくと、力強く抱きしめてくれる。
高齢だけどすごい力だ。
さすが海賊の島の皆から恐れられているだけの事はあるね。
「もう行きな……」
おばあさんの身体が小さく震えている?
あ……
涙を我慢しているんだ。
泣き顔を見せたくないんだね。
「……うん。おばあさん……また来るね」
「ああ。約束だ……」
おばあさんがそう言いながらもう一度強く抱きしめてくれる……
あぁ……
おばあさんが心からわたしを愛している気持ちが伝わってくる。
絶対に、今度は笑顔で遊びに来るからね。
こうして……
ついにお兄様にお別れを言う時間がやってきた……




