お別れの時(3)
「……わたし……おばあ様を泣かせちゃった」
高齢なのに……
本当に申し訳なかったよ。
「生きているペリドットを抱いて泣けたのなら良かったさ。亡骸の娘を抱きしめて泣くよりはね……」
おばあさんが辛そうに呟いたね。
「おばあさん……」
ルゥの母親が亡くなった時の事を言っているのかな?
「ルゥの母親がわたしの娘だって事はカサブランカには話してないね?」
「うん。おばあ様には話していないよ」
「そうか。それでいい」
「おばあさんは……ううん……なんでもない」
わたしが『本当にそれでいいの? 』なんて言ったらダメだよね。
おばあさんの娘さんと、おばあ様の亡くなった娘さんをこっそりすり替えていた……
その事で一番傷ついているのは、おばあさんなんだから。
実の娘さんであるルゥの母親が殺されたんだ。
本当は育てたかった娘さんをあんな風に……
おばあさんの心は辛いなんて簡単なものじゃないはずだよ。
苦しくて苦しくてきっと誰よりも自分を責めたはずだ。
もっと早くあの場に着けたら……
あの時娘さんを手元に置いて育てていたら……
そんな風に考えたのかな?
おばあさんはどんな気持ちでお兄様を育てたんだろう。
どんな気持ちで海に落ちたルゥを捜していたんだろう。
考えれば考えるほど胸が痛くなる……
「ペリドット……本当に気ばかり遣って……わたしは後悔なんてしてないさ。わたしの娘は……ルゥの母親は……神力のせいで魔族が暮らすこの島には、いられなかったんだ。あの子の神力はルゥとは違って魔族が嫌がるものだったからね」
「……そう」
おばあさんの苦しみが伝わってきてわたしまで辛くなるよ……
「ペリドットは魔族といても大丈夫なんだろう?」
「うん。魔族の皆はわたしの神力を心地良いって言ってくれるよ」
「そうか……一体何が違ったんだろうか。あの子が亡くなった今となっては、もう何も分からない……」
「おばあさん……」
すごく辛そうで心配になるよ。
「ペリドット……わたしに別れの挨拶に来たのかい?」
「……うん」
「律儀な子だね。……ありがとう」
「……え?」
「会いに来てくれて嬉しいよ。ペリドット……元気に過ごしていたかい?」
おばあさんが優しく微笑んでいる。
辛そうだったから安心したよ。
「うん。ずっと元気だったよ。毎日忙しくて……でも、すごく充実しているよ」
「そうかい。それは良かった」
「おばあさんは? ココちゃんがリコリス王国に行って寂しくない?」
「ココはヘリオスと共にいるべきだ。自分が寂しいからって孫の幸せを喜べないなんて祖母としてダメだろう? それに、今は赤ん坊もいるからねぇ。海賊の島も毎日笑いが絶えないんだ」
「レオンハルトの妹さんだよね。あ……お兄さんの方は? 具合はどう?」
「ああ。毎日海を見ながらぼんやりしている。かなり強い薬で頭がやられたらしくて……だが、今はだいぶ良くなってきた。もう、元のようには戻れないだろうが、プルメリアにいるよりは海賊の島にいる方が幸せかもしれないな。プルメリアに戻っても嫌な記憶に苦しむだけだ。それに……」
「それに?」
「献身的に世話をしてくれる女がいるんだ」
「……そうなの?」
「ヘリオスが、処刑した事にしてこの島に寄越した女だ。全く……次から次に新入りが増えて……また賑やかになった」
「へぇ……そうなんだね」
処刑した事にしたなんて……
何があったんだろう?
でも、迷惑そうに言っているけど少し嬉しそうにも見えるような……?




