お別れの時(2)
「……お願いよ。絶対に幸せに暮らしてね。世界一かわいい……わたくしの宝……わたくしの全て……」
おばあ様の身体が震えている。
でも、このままお別れなんてできないよ。
おばあ様は、ルゥの母親ときちんとお別れできなかったんだから。
わたしは、おばあ様としっかりお別れしないといけないんだよ。
「おばあ様……一緒に泣こう? 一人で我慢なんてしないで?」
「ペリドットちゃん……」
おばあ様の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。
どれくらい経ったんだろう。
二人で声を出して泣いて、気がつくとおばあ様は泣き疲れて眠っていた。
あぁ……
高齢のおばあ様に辛い思いをさせちゃった。
……眠っているうちに行こう。
これ以上泣かせたら身体に悪そうだ。
「おばあ様……わたしのおばあ様……ありがとう。ずっとずっと忘れないよ。ずっとずっと大好きだよ」
空間移動の光で起こさないように部屋から出ると、部屋の中からおばあ様の泣き声が聞こえてくる。
中に入った方が……
ドアノブに手を伸ばしたけど……
でも……
わたし……
中に入ってもまたおばあ様を泣かせちゃう……
「ごめんなさい……おばあ様……わたし……これ以上おばあ様に泣いて欲しくないの。冷たい孫でごめんなさい……」
扉越しだけど聞こえているよね……
「いいの……もう行って……ペリドットちゃん……おばあ様もずっとずっと大好きよ」
弱々しい声……
胸が痛いよ。
さっきのわたしの話を聞いていたんだね。
また泣かせてしまってごめんなさい……
「……うん。……うん。おばあ様……さようならは言わないよ……」
「……ペリドットちゃん」
「『いってきます』……わたしも、ずっとおばあ様の心の中にいるからね」
「……愛しているわ」
「わたしも……愛しているよ……じゃあ……身体に気をつけて……」
「……ええ」
おばあ様の震える声を聞きながら、海賊の島の波打ち際に空間移動する。
「うぅ……うわあぁぁぁん……」
もう我慢なんてできないよ。
わたしのせいでおばあ様を泣かせちゃった。
わたしのせいで……
「……おやおや。どこの赤ん坊が流れ着いたかと思えば……」
海賊の島のおばあさん?
いつの間に……
「うぅ……おばあさん……」
「ペリドット……別れが辛いのかい?」
「……うん。でも自分で決めた事だから」
「そうか……」
「おばあさん……今日でお別れだね」
「……そう決まったわけじゃないさ。いつか偶然どこかで会うかもしれないだろう?」
「いつか偶然?」
「ああ。こうやって……あの時、海で見失ったペリドットと出会えたように」
あの時……?
生まれたてのルゥが拐われて海に落ちた時の事かな?
「……おばあさん。あ! わたしすっかり忘れていたよ。レオンハルトの事が解決したらシャムロックのおじいちゃまとおばあ様が幸せの島に遊びに来てくれるんだった」
「……ははっ! それなのに今生の別れをして泣いていたのかい?」
「……うぅ。恥ずかしいよ」
「今頃カサブランカも恥ずかしくて笑っているだろうよ」
だったらいいけど……
おばあ様は今頃どうしているかな?




