ベリス王子だけが話す回
「では……名残惜しいですが……これにて『楽しい思い出を作る会』は終わりです」
ベリス王子が悲しそうに話し始めたね。
これはまた長くなりそうだよ。
「あ、そうでした。大切な事を忘れていました」
ん?
なんだろうね。
奥から箱を持ってきたよ。
「これはこの場にいる我々だけしか持てない限定品です。『無人島でヒヨコ様の頭に乗ったカブトガニ』の帽子……特別に学長と先生とクラスの皆様にだけ贈らせていただきます」
ええ!?
これって昨日のカブトガニ!?
たった一日でこのクオリティのカブトガニの帽子を人数分作ったの!?
すごいよ!
クラスの皆が自分のヒヨコちゃんのぬいぐるみに大喜びで被せているね。
わたしももらったからさっそく被せて……
って!
ああっ!
わたし……
持っていないよ。
この小さいカブトガニの帽子を被れるサイズのぬいぐるみを持っていないよっ!
「おや? ぺるみ様はどう……ああ、そういえばぺるみ様は、この帽子が被れる大きさのぬいぐるみを持っていませんでしたね」
うぅ……
欲しいよぉ……
この帽子が被れるサイズのぬいぐるみが欲しいよぉ。
「ははは! 今なら特別に金貨十枚で買えるぬいぐるみがありますが……」
足元を見ているね!?
もっと安い物がさっきそこにあったよ?
って……
無い!?
無くなっているよ。
今はわたし達だけの貸し切りだから売れるはずがないのに。
まさか……
わたしに高いぬいぐるみを売りつける為に隠したんじゃないよね!?
「ははは! さあ、どうしましょうねぇ」
ベリス王子め!
商売上手にもほどがあるよ!
「実はぺるみ様の婚約者様に若い女性に人気な物は何かと尋ねられまして……ぬいぐるみだと答えたのです。そうしたら、ぜひぺるみ様に贈りたいと……いやぁ。愛されていますねぇ」
また、純粋なハデスを騙したんだね。
ハデスは全財産ベリス親子に持っていかれそうだよ。
と言うか……
ベリス王子の金庫の中の金貨はほぼハデスから搾り取った物じゃないの!?
「ですから、こちらの金貨十枚のぬいぐるみをどうぞ。いやぁ……先ほどまではもっとお安いぬいぐるみがあったのですが……どこに行ったのやら」
わざとらしいね。
どうせ、従業員に隠させたんでしょう?
「ちなみに、こちらのぬいぐるみの瞳はぺるみ様の婚約者様と同じ瞳の色となっております」
……そう言ってハデスに買わせたんだね。
ハデスはそういうのに弱いから……
「ははは! いやぁ……良かった、良かった。ははは!」
一体何が良かったのか。
ベリス王子の商売上手にも困ったものだよ。
こんなに儲けているのに満タンにならない金庫か……
どれくらい大きいのか見てみたいよ。




