ベリス王子とペルセポネ(1)
「いやぁ……楽しい時間は、あっという間に過ぎますねぇ」
ベリス王子がいつもの作り笑顔で話しかけてきたね。
でも、少しだけ悲しそうにも見えるよ。
クラスの皆はカフェの隣のスペースの雑貨を見ているから普通に話しても大丈夫だよね。
「王子は、まだアカデミーに通ってもいいんじゃないかな?」
「いえ。わたしも王太子としてやらなければいけない事がありますから」
「そうなんだね」
「不思議ですねぇ」
「……? 何が?」
「ぺるみ様と出会ってからまだ少ししか経っていないというのに、わたしはあり得ないくらい前に進めました」
「前に進めた……?」
「はい。姉上の事もそうですし、王太子になれた事も……」
お姉さんは数代前の魔王に傷つけられて心を壊していたんだよね。
今は吉田のおじいちゃんに記憶を消してもらって、わたしの血で赤ちゃんになったんだ。
「それは王子が頑張ったからだよ」
「ははは。まぁ、それもありますが……わたしの力だけでは姉上は幸せにはなれませんでした」
「……王子」
「今では幸せな赤ん坊ですよ。家族全員からたくさんの愛を与えられて……」
「そう。妹さんは弟さん達からも愛されているんだね?」
「はい。それだけではなく……弟達は時々、姉上の墓前に行っているようです」
「あの弟さん達が?」
あんなにお姉さんを嫌っていたのに……
「あのお方に肉体的、精神的苦痛を与えられて色々と考えたようです」
あのお方?
ばあばの事だよね。
「あれは、すごかったね」
特に精神的苦痛が……
「はい。ですが、そのおかげで弟達は姉上の苦痛を知る事ができたのです」
「……そう」
「ぺるみ様」
「ん?」
「ぺるみ様は不思議なお方ですね」
「不思議? 変態じゃなくて?」
「うーん。上手く言えませんが、出会った者が皆幸せになれるのです」
「……それは違うよ。人間の公爵家は処刑されたし」
「あれは、自業自得ですよ。それに、会ったのは処刑の時が初めてでは?」
「それは……そうだけど」
「ぺるみ様は、苦しむ者の心の闇を祓うお方……まるで魔素を祓うかのように」
「魔素を祓うように?」
「と言うよりは寄り添い前を向かせてくれる……? うーん。難しいです」
「わたしはそんなに立派じゃないよ」
「ところで……ぺるみ様の心の暗闇は祓われましたか?」
「……え?」
「遥か昔の恐ろしい記憶やグンマでの辛い記憶……傷ついた心は楽になりましたか?」
「王子……」
最近は色々あり過ぎて自分の事を考える暇もなかったよ。
「辛い記憶は心を切り刻み、その傷は永遠に残ります。姉上がそうだったように」
「……うん」
ベリス王子が言うと重みが違うね。




