イフリート王子とペルセポネ(3)
「前ヴォジャノーイ王には感謝しているんだ」
イフリート王子はそう言うけど……
「辛い鍛錬をさせられる事になったのに?」
「父上が『幸せの島から生きて帰ってこられて良かった』って抱きしめてくれて……オレ……父上に愛されていたんだって分かったんだ」
「そう……」
「その後、前ヴォジャノーイ王が城中の家具を持ち去って……父上にすごく怒られたけど、空っぽになった城内で父上と目が合ったら笑いが込み上げてきて……大笑いしたんだ。父上が声を出して笑う姿を見たのは初めてだったから驚いたけど……でも……嬉しかった。母上が亡くなってから父上は笑わなくなったから」
イフリート王子の話を黙って聞いているベリス王子がずっと辛そうな顔をしている。
ベリス王子は、苦しんでいるイフリート王子の気持ちを知っていたのかな?
数代前の酷い魔王に大切な家族を連れ去られて苦しめられた気持ちは当事者にしか分からないよね。
権力に溺れた魔王……
絶対に赦せないよ。
「イフリート王が、息子である王子の事を愛しているのは見ていれば分かるよ。無人島の時も無事に解決できてすごく安心した顔をしていたし」
素敵なお父さんだよ。
心から王子を心配していたし。
「あぁ。オレの髪を撫でてくれた父上の手が震えていたんだ。すごく心配してくれていたみたいだった」
「ふふ。もっと甘えてみたら? きっと喜んでくれるよ。あ、家具を返した方がいいかな?」
「いや、大丈夫だ。その後すぐにベリス王が来て家具を大量に買わされたんだ。あの時のベリス王の顔……すごく嬉しそうだったな」
「……簡単に想像できるよ。でも、イフリート王は人間のお金を持っていないよね?」
「対価としてイフリート族を五人連れていったんだ。火の魔力を使えるから助かるって言っていたな」
「まさか、無理矢理働かされていないよね?」
「ベリス王はその辺りはちゃんとしているんだ。睡眠や食事や報酬も充分に与えているらしいし、休暇には国に帰ってきて家族にも会えるんだ」
「そうなんだね……」
そういえば、ベリス族や傘下に入る魔族達はベリス王を信頼しているみたいだった。
物さえ売りつけなければ本当はすごく素敵な魔族なんだろうな。
傘下に入っていない魔族やわたしは何回も騙されてきたから詐欺師にしか見えないけど……
「ははは。父上は仕事に対して常に誠実ですから」
ベリス王子が嬉しそうに笑っている?
父親の事が大好きだから褒められて嬉しいんだね。
でも……
「ベリス王子……常に誠実って、どの口が言っているの?」
わたしはいつもベリス親子に騙されているんだけど……
「ははは。この口ですよ」
「……もう。困った口だね」
「ははは。なんの事やら」
「本当に父親にそっくりだよ。でも、不思議だね。わたし達は同じ血を引いているんだよね」
「はい。わたしもイフリート王子もオケアノス様の子孫ですからね。これを知った時は正直驚きましたが、今はとても嬉しいのですよ。わたしはおじい様とおばあ様の事を尊敬していますから」
吉田のおじいちゃんとおばあちゃんを尊敬している……か。
確かにベリス親子はそんな感じだよね。
でも、イフリート王子はどうなんだろう?




