イフリート王子とペルセポネ(2)
「父上はオレに言いながら……自分自身にも言っているんだ。『胸を張れ! 前を見ろ』って。母上の事で前を向く為に頑張る父上を見ると……オレも頑張らないといけないって思って……だから、勉強も魔術も頑張ってきたんだ。父上にオレの事で負担をかけたくなくて……笑って欲しくて……」
イフリート王子が辛そうに話している。
見ているわたしまで悲しくなってきたよ。
「王子……」
「でも……ぺるみに出会ってから少し変わったんだ」
「……え?」
「まだぺるみがルゥだった頃、前ヴォジャノーイ王が城中の家具を持ち去って……」
やっぱりハデスは無理矢理家具を持ってきちゃったんだね。
「……あの時はごめんなさい」
「いや、悪いのはオレだから。オレが幸せの島を焼いたから……あの時はごめん」
懐かしいな……
あれからそんなに経っていないのに、色々あったよね。
「でも、不思議だね。あの時、幸せの島が焼かれたから今王子達が暮らしている家をウェアウルフ族が建てて、使っている家具はイフリート城から持ってきたなんて……」
「そうだな。全部がこんな風に繋がるなんてな」
「でも、わたしに出会って変わったって何かあったの?」
「あぁ……あの一件があるまでは父上との間に少し距離があったんだ。でもあの時イフリート城にオレを縛って連れて行った、前ヴォジャノーイ王が父上に言ったんだ」
「ハデスが……?」
「『親として罪を償え』って……」
「親として……?」
「『親は子に無償の愛を注ぐものだ。息子がこれほどお前を愛している気持ちにも気づかないのか』とも言っていたな」
「……無償の……愛……?」
「今ならその言葉の意味が分かる。前ヴォジャノーイ王は天界で父親に飲み込まれたんだよな。でも、父親はすごく子供達を愛していた。その気持ちを知る、前ヴォジャノーイ王はタルタロスに父親を閉じ込めなければいけない事に酷く傷ついてずっと悩んでいたんだ」
「……うん。そうだね」
「あの頃はそんな事を何も知らなくて……でも、前ヴォジャノーイ王は『お前は息子を狭い箱に閉じ込めてどんな未来を見せるつもりだ。いつまでも自分が守り続けられると思うのか。本当に守るという意味はそんな事ではない。自分の身を自分で守れるように育てるのが子育てだ』って言って……」
「……そう。ヴォジャノーイの『じいじ』だった頃のハデスは、わたしを生かす為にずっと生きるか死ぬかの鍛錬をしてくれたの。わたしは魔族にいつ殺されてもおかしくない立場だったから、わたし一人が残ったとしても生き続けられるようにって……」
「そうだな。父上は色々考えたみたいだ。母上を守れなかった自分を責めてオレを必死に守って……でも、それじゃダメなんだって思ったらしい。オレが母上みたいに拐われても自力で逃げられるように『今よりもっと強くなれ』って……あれからは今まで以上にすごい鍛錬をさせられたんだ」
「そうだったんだね」
あのイフリート王の鍛錬なら、かなり激しそうだよ。




