人間は少しずつ前に進んでいるんだね
「立派過ぎる先祖の存在に苦しんでいる……か」
本当は全然立派なんかじゃないけど、わたしがそれを言うのは違うよね。
怒りに任せて『その先祖は勇者殺しの犯罪者だ』なんて言ったらダメだよ。
「はい。だからわたし達で掛け算の謎を解こうと思っているんです」
「わたし達だけじゃ無理かもしれないけど……頑張ってみようと思います」
学術科の女の子達は立派だよ。
「そう……素敵な目標だね」
悪いのは先祖で、今を生きる令嬢は悪くないんだ。
冷静にならないと。
「いつか……ペリドット様の国までわたし達の名が届くように頑張ります」
「だから……待っていてください。それが、わたし達ができる恩返しだと思うんです」
「……? 恩返し?」
何の?
「はい。聖女様……本当にありがとうございました。聖女様は、この世界を命がけで浄化して……わたし達に未来を続けさせてくれました。わたしは絶対に聖女様を忘れません」
「わたし達が数学の未来を切り開きます。わたし達には勉強しかできないから」
「未来を……切り開く……」
わたしが浄化したこの世界は……
前に向かって進んでいる……?
貴族と平民が一緒に……?
厳しい身分制度で縛られている人間が少しずつ変わり始めているんだ。
「ペリドット様……出会えて本当に……心から幸せでした」
「救ってもらった命を精一杯生きていきます」
心から幸せ……?
精一杯生きる?
わたしもだよ。
わたしも心から幸せだよ。
あぁ……
涙が出てきちゃった。
「……うん。ごめんね。今日は泣かないって決めていたのに……やっぱり我慢できなくて……」
ベリアルと、泣かないって約束していたのに……
「ペリドット様ぁ……」
「お別れなんてしたくないです……」
三人で抱きしめ合うと温かくて……
でも、やっぱり悲しいよ。
胸がギュって締めつけられて苦しいよ。
もう会えないなんて……
こんなに皆の事が大好きなのに……
「ぺるみ……」
ベリアルがゆっくりわたしの腕に飛んできた。
すごく心配そうにわたしを見つめている。
「うぅ……わたし……泣かないって約束したのに……」
「いいんだ。泣かないなんて無理だろ? ぺるみは皆の事が大好きなんだから」
「……うん。大好きだよ。皆の事が大好きだよぉ……うぅ……」
「いっぱい泣け。いっぱい泣いたら前に進むんだ。だから今は泣け……」
ベリアルのパンみたいなかわいい翼がわたしの髪を優しく撫でてくれる。
「ぺるみお姉たん……」
……?
スーたんがわたしの制服のスカートの裾を引っ張って心配そうな顔をしている?
「スーたん?」
どうかしたのかな?
「ぺるみお姉たん……泣かないれ? スーたん、泣きたくなっちゃうよぉ」
……!
スーたんの瞳がウルウルしている。
本当は優しい子だったんだね……
誤解していたよ。
(あ……違いますよ?)
ん?
ゴンザレス?
何が違うの?
(どう振る舞えば自分がかわいく見えるかを考えた結果がこれです。『泣かないで』にするか『泣かないれ』にするかで悩んでいましたよ? 結局『泣かないれ』にしてかわいさを強調していましたね)
……!?
すっかり騙されたよ。
スーたん……
恐ろしい子……
でも、おかげで涙が止まったよ。




