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愚かな先祖……か

「あの……先生。これからも講義をしていただけませんか?」

「まだまだ不安で……先生に教えていただきたい事がたくさんあって」

「先生……お願いします」

「見捨てないでください!」


 学術科の男の子達がベリス王子に必死に頼んでいる。


「わたしが皆さんに教える事はもう何もありませんよ? 皆さんはとても素敵な紳士です」


 うわ……

 この作り笑顔……

 まだまだ色々売りつけるつもりだね。


「先生っ!」


 女人君がベリス王子に抱きついたね。

 初めて会った時は『女人』しか言わなかったのに……

 人間はこんなに変われるものなんだね。

 

「ペリドット様……」

「今日でお別れなんですね。悲しいです」


 学術科の女の子達が悲しそうに話しかけてきたね。


「……うん。今までありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございました」

「貴族の皆さんもすっかり人が変わって……毎日穏やかな気持ちで勉強に取り組めるようになりました」


「そっか。良かったよ」


 確かに初めて会った時の男の子達は独特な雰囲気だったからね。


「もう……会えないんですか?」

「遊びに来てはもらえないんですか?」


「……うん。ごめんね。国に帰ってやらなければいけない事がいっぱいあって」


「あ……ペリドット様は王女殿下だから……」

「わがままを言ってごめんなさい」


「謝らないで? すごく嬉しいよ。……わたしと友達になってくれてありがとう」


「そんな……わたし達みたいな平民と友達なんて……でも、すごく嬉しいです」

「わたし……絶対にペリドット様の事を忘れません」


「わたしもだよ。本当にありがとう。二人はこれからどうするの?」


「わたしは卒業後は国の為に働くつもりです。平民なのにアカデミーに通わせてもらった恩返しをしたいんです」

「わたしもです。実は普通科の数学が得意な令嬢が一緒に掛け算を覚えないかと誘ってくれて。長期休みに勉強会をする事になったんです」


「普通科の数学が得意な令嬢? あ……もしかしてジャック先生のクラスの?」


 確か、掛け算の本を持っている女の子がいたよね。


「とても素敵なお方で、貴族だけど身分差別をしないんです」

「そうなんです! 聞いてください! 令嬢のご先祖様がなんと掛け算を作ったお方だったんです!」


 ……え?

 それって、勇者だった頃のピーちゃんを殺して掛け算の本を作って売り出したっていう?

 あの令嬢がその子孫だったのか。


「へぇ……そうだったんだね」


 心がモヤモヤするよ。

 自分の名声の為にピーちゃんを殺した人間の子孫……

 でもあの令嬢はすごく良い子に見えたよ。

 令息からわたしを庇ってくれたし。


「ご先祖様は立派なのに自分は全然ダメだと苦しんでいて」

「掛け算がどうしてああなるのか、全く理解できないと泣いていたんです」


 っていう事は、先祖も掛け算の理論は分かっていなかったのかな?

 当然だよね。

 掛け算を九の段まで聞き出したらピーちゃんを殺したんだから、元々頭なんて良くなかったんだよ。

 式と答えだけしか分からなくて、どうしてそうなるのか今まで誰にもたどり着けなかった。

 賢いと思っている先祖が本当は愚かな犯罪者だった……か。

 子孫はその愚かな先祖のせいで苦しんでいるんだね。

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